東海大学自然史博物館研究報告 第1号

駿河湾産有殻軟体動物目録

波部忠重・久保田 正・川上 東・増田 修

42p., 1-2 Plates, 1986年11月発行

Check list of the Shell-bearing Mollusca of Suruga Bay, Japan
Tadashige Habe, Tadashi Kubota, Azuma Kawakami and Osamu Masuda

Science Report of Natural History Museum, Tokai University, No.1
42p., 1-2 Plates, Nov., 1986


ABSTRACT


 駿河湾は伊豆半島先端と遠州灘の東端御前崎とを結ぶ線以奥の湾入海域であるが、相模湾等とは異なり、水深 1,000mの等深線が湾内深く及んでいて、東岸伊豆半島側では甚だ急斜面の岩礁底が多く、西北岸では大井川、安倍川、富士川等の大きな河川の流入があり、沿岸は砂底の浅海が広い大陸棚となり、その縁より急に深くなっている。湾奥の内浦湾は水深200m以浅の砂泥底である。また、湾央には石花海の岩礁が水深 2,000mよりそそり立ち、最浅水深になる。
 一方海水は湾奥では水深 20mまでは沿岸河川系海水で、それより水深 100mまでは透明で水温は高いが塩分がやや少ない表層水、水深 100〜200mまでは塩分の多い黒潮系海水、水深 200〜1,200mは低温でやや塩分の少ない亜寒帯系中層水、1,200m以深は低温の深層水の浸入とされている。
 このような駿河湾の海況の下での貝類の分布をみると、駿河湾の位置は大体35゜Nであるが、駿河湾産の貝類各種の南限(赤道 0゜を最南としたので計算上無理があるが)と北限との中央緯度を求めて、それ等各種の中央緯度の中央値を求めると32゜Nを得た。これは実際の緯度より南に偏することになり、黒潮の影響をうけて、黒潮暖流系の貝類が多いことを示している。
 潮間帯貝類について調べると、駿河湾の東湾口である伊豆半島側の貝類相の中央値は30゜を示して、さらに黒潮暖流系貝類が多いことを示し、これに対して西湾口の御前崎では中央値は31゜Nを示す。湾内の海流は伊豆半島より入り、御前崎より出る流れがあり御前崎側は伊豆半島側より黒潮の影響が弱く、湾奥に多いタマキビガイが御前崎に及んで、伊豆半島側より多い。湾奥内浦湾では中央値が33゜Nとなって、黒潮の影響が弱くなり、タマキビガイ、マガキ等の大陸沿岸に広く分布する貝類が多くなることを示す。
 岩礁海岸の潮間帯の帯状分布は基本的には黒潮領域太平洋岸の形式であるが、湾口部で紀伊半島におけるより黒潮外洋性の種が少なくなるが、湾奥まで湾口部の種が分布して外洋の影響が湾奥にまで及んでいることを示す。すなわち高潮位のタマキビガイ層はアラレタマキビガイが湾口より湾奥にまで湾内に広く分布するが、黒潮外洋性のイボタマキビガイは伊豆半島安良里以南に小数出現するにすぎず、御前崎側には出現しない。湾奥および小湾入の奥部にはタマキビガイが多く出現する。タマキビガイ層の下に甲殻類のフジツボ層があり、湾内広くイワフジツボがアラレタマキビガイのように分布する。黒潮外洋性のオオイワフジツボの分布は確認していないが、湾奥にはイワフジツボの減少とともにシロスジフジツボが多くなる。コビトウラウズガイが多く、また湾口ではベッコウカサガイ、ヨメガカサガイ、ヒザラガイ等、湾奥ではクログチガイ、コガモガイ等がいる。中潮帯下はカキ層で、湾口にはケガキが多く、湾奥ではマガキが多い。黒潮外洋性のオハグロガキは出現しなかった。その他の貝では湾口ではケハダヒザラガイ、ウノアシガイ等が、湾奥ではマガキの殻の間にチリハギガイ、セミアサリが見られる。低潮帯では湾口部にクロフジツボとムラサキインコが分布するが、後者は一般に少なく、これに対して湾奥部ではムラサキイガイが出現することがある。
 湾内100m以浅では黒潮暖流系の貝類に日本沿岸に主分布のある貝類ミクリガイ類ヒタチオビガイ等が混在するが、深度を増すとともに寒流冷水系の貝類、カブトアヤボラ、スルガバイ、サガミバイ、ドングリバイ、ヒメエゾボラモドキ、ツムガタネジボラ、ケショウシラトリガイ等出現するようになるが、さらに水深 1,000mを超えるとオネダカソデガイ、タカイソデガイ、シジミナリクルミガイ、オオハリナデシコガイ等になる。しかし、駿河湾ではそれ等深海の階類の貝殻が浅底の方へ深度分布を拡げている。これは湾内が急峻な傾斜であることによる特異な分布でないかと思われる。
 また、二枚貝類の深度分布を二枚貝類全種の死骸片数(A)と古多歯類のそれ(B)との割合でみると、水深 200m以浅ではB/Aは0.08であるのに対して、水深 500m以深ではB/Aは0.80であり、さらに水深 1,000m以深ではB/Aは00.93になって、水深を増すほど、古多歯類の歯数(Knudsen,1979)のみならず死骸片の割合も増加する。
 駿河湾産頭足類のイカ類相は50種に達し、その中には太平洋域から初めて採取されたオナガイカも含まれる(Okutani and Kubota,1972)。それらの当湾産の種類を大きく分けると次のようになる。

 このように限られた湾内でこれだけ多様な種類からなるイカ類相がみられるのは、他の湾での例は見当たらない。


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最終更新日:2001-11-12(月)
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