ここでは、2004年度の卒業研究で調査したカサゴの生態について簡単に説明します。
全長約19cm |
全長約15cm |
↑両方ともカサゴの写真であるが、採集した季節や場所、個体等により体色が異なる。またカサゴに良く似たウッカリカサゴという別種もある。これらは、カサゴに比べ比較的大型で、より沖合いの深所に棲息する。 |
【生態】
行動: |
カサゴは一般的に定着性が強く、行動圏が狭いとされている。標識放流の結果でも、移動距離はおおよそ1km以内であり、縄張りを持っていることも観察されている。 |
季節的な行動様式: 下図は清水港におけるカサゴの季節的な行動様式を大まかに示している。 |
春は仔魚の浮遊する季節 生まれた仔魚は遊泳力がないため、産後数十日間、海流に身を任せて浮遊生活を送る。その間に、他の魚の餌となったり、環境の変化で死亡したりすることがある。体長約20cm程度に成長すると、沿岸の潮間帯域へ移行し、着底生活に入る。 |
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夏は成魚の移動季節 夏季には、大型の成魚は深場に移動し、沿岸では新規に加入した小型個体がみられるようになる。 |
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秋〜冬は成魚の成熟季節 冬季、大型個体は繁殖時期を迎え、沿岸に接岸すると考えられている。雄は11月に成熟盛期を迎え、雌はやや遅れて11月〜3月の間に成熟盛期を迎える。交尾期は雄が成熟する11月以降と考えられている。 |
成長:
清水港のカサゴの場合、5歳で♂25.3cm、♀19.2cmになると見積もられた。同じ年齢の雄と雌では、全長に大きな差が見られる。一般に、カサゴでは雌よりも雄の方が大きい。それは、雄の短い成熟期に対し、雌では成熟期が約半年にも渡って続くことや、下記項目で示したようなカサゴ独特の繁殖生態に起因していると考えられている。雌カサゴが多くのエネルギーを繁殖に費やした結果であると推測される。
また、清水港産カサゴの生物学的最小は、12.8cmで満1歳であった。このことから、生後約1年で10cmを越え、繁殖に加わっていることが示唆された。
繁殖:
カサゴの繁殖期は水温の低下する冬である。カサゴの特異的なキーワードとなるのが、『卵胎生』、『多回産卵』、『成熟期のずれ』である。
卵胎生 カサゴ類の繁殖生態には、主に卵を産卵する「卵生」、仔魚を産仔する「卵胎生」がある。カサゴは、後者の卵胎生で、子ども(卵または仔魚)を自分のお腹の中で、ある程度成長させてから産仔する。子どもが成長するまで育てることで、子の死亡率を極力減らしている。 お腹の中の孕卵数は年齢や大きさで異なるが、3〜10万粒と見積もられた。また、産仔される仔魚の全長は3.2〜3.5mmであった。 |
多回産卵 カサゴは約半年にもわたる長い繁殖期の中で、個々の個体が1〜3回ほど産仔を行う。産仔時期をずらして複数回の産仔を行うことは、急激な環境の変化に対しても仔魚の全滅を防ぎ、子孫を残そうとする繁殖戦略だと考えられる。 |
成熟期のずれ |
食性:
多くの個体の胃内が空の状態であることが明らかとなった。胃内に出現した餌料物を調査したところ下記のようになった。
図.清水港産カサゴの胃内容物組成 |
胃内容物組成の約7割がエビ、カニなどの甲殻類で占められていた。次いで多いのは魚類であった。清水港だけでなく他地域の報告でも、似たような内容物組成を示しており、カサゴが甲殻類を好んで捕食していることが示唆された。 一方で、小型のヒトデや貝がら、海藻、小石、釣り針なども含まれていることが明らかとなった。 |
遺伝的多様性について・・・ カサゴ成魚の移動範囲は大体1km以内であると報告されている。定着性の強いカサゴにとって生活範囲の狭さが原因となり、他地域の集団との隔離が生じると考えられる。その結果、集団間での繁殖隔離が起こることが懸念され、同一集団内での近親交配が進行することで、やがては種の多様性が損なわれてしまう恐れも考えられる。そうなると、外部環境の変化や病気の蔓延などによって、種の全滅さえ危惧される。 そこで成魚の代わりとなって、それを回避する役目を担っているのが仔魚と考えられる。遊泳力のない仔魚は複雑な海流によって、成魚が行くことのない様々な水域に運ばれる。そこにたどり着くまでに死亡してしまう個体も決して少なくないが、生き残った仔魚は運ばれた先で成長し、新たな子孫を残す。その結果、地域間での遺伝子交流が起こり、遺伝的多様性が保たれ、そのことが種の保全に繋がっていると考えられる。 |