■『海のはくぶつかん』1997年11月号

シイラが展示されるまで

 日置 勝三

 シイラは体が左右に平らで長く、頭は大きく、尾にかけてしだいに細くなる、おもしろい形の魚です。成長すると全長1.8mにもなります。成熟した雄は頭部が著しく出っ張るのが特徴です。体色は輝く青緑色で、光線の具合では金色にも輝き、コバルトブル−の斑点がちりばめられています。

 全世界の温・熱帯海域の表層で生活し、流木等の浮遊物の下に集まる習性があります。イワシなどの小魚をかなり貪欲に食べます。
 当館の海洋水槽(600m3,水深 6m)はその深さを利用して、表層で生活する魚と底や岩組に依存して生活する魚のすみ分けを観察することができるようになっています。その表層魚の代表として、現在スマやマサバが展示されていますが、シイラもそれに加えようという案が出て検討され、実行されました。今回はその様子を写真を主に説明します。
 シイラを採集するには、船で行う引縄(トロ−リング)と呼ばれる方法があります。ただし釣りあげても活かして運ぶ生け簀がなくてはなりません。東海大学には海洋学部に「第二南十字」と「第二北斗」という20トンの小型実習船が二隻あり、時々博物館の採集に協力していただいています。この船には10m3程の大きな活魚槽があります。今回のシイラ採集にもこの船に協力していただきました。
 駿河湾でシイラがよく釣れるのは8〜10月です。9月11日から10月1日の間に3回採集を行いました。朝6時30分に清水港を出港して大井川沖までの往復をゆっくりとしたスピ−ドで航行して引き縄を行います。出港して10分もすると、方々にカタクチイワシが濃密な群れを作って水面が波立っている場所が見られます。大きな魚に食べられるのを恐れて逃げ惑っているのでしょう。ソウダカツオが水面を群れている様子もわかります。その付近を引き縄が通過すると、大きさ35cm程のソウダカツオがかかります。

 30分もすると目的のシイラがかかり始めました。普通釣り針には魚がはずれないように“かえし”がついていますが、水族館で活かすためにはそれを少し加工します。傷をできるだけ少なくするためにヤスリでかえしを削るのです(図1)。ただし釣った魚は針からはずれやすく、途中で逃げられてしまうことが多くなるので、糸をたぐり寄せるのには技術がいります。
 釣り上げた魚をできるだけ傷つけないように船の生け簀に運ばなければなりません。魚体には触れずにペンチで針をつかんで、はずします(写真1)。海水を入れたプラスチックの容器で受けて生け簀まで運びます(写真2)。生け簀の中は常に新鮮な海水が入るように工夫されています。

 1回の採集で10〜20尾を釣り上げて活かします。午後2〜3時頃に清水港に帰港し、そこから博物館まではトラックで運びます。船の生け簀からトラックの輸送水槽に移さなければなりません。生け簀に人が入り、プラスチック容器で1尾づつ丁寧にすくい取り、移します(写真3,4)。

 陸上の輸送は20分くらいです。その間も水槽内に酸素を補給しながら運びます。
 博物館に着いてもすぐに展示水槽に入れるわけには行きません。というのは、傷を治したり、病気の予防をしたり、餌を食べるかどうかを見たりして体力の回復を図ります。この間は約7〜10日間で、予備槽で過ごします。もちろん予備槽への移し替えもプラスチック容器で行います。展示水槽である海洋水槽への移し替えは専用の大型移動水槽で行います。この水槽をクレ−ンで海洋水槽の水面まで吊り上げ、水面上に降ろし魚をゆっくりと流し込みます(写真5)。

 展示されたシイラは餌もよく食べ表面近くを元気に泳いでいます(写真6)。ともに苦労した魚と飼育係はもう友達です。

 これがシイラの採集から展示までの流れ(図2)ですが、他の魚もほぼ同じような扱いで水族館に運ばれてきます。

 図2


『海のはくぶつかん』Vol.27, No.6, p.2 (所属・肩書は発行当時のもの)
  ひおき しょうぞう:学芸文化室水族課

最終更新日:1997-11-25(火)
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