■『海のはくぶつかん』1997年5月号

水族館一日飼育係

 岡 有作 

 水族館の魚たちはどうやって飼育されているのだろうとは誰しも知りたいところだと思います。水槽を表側から見ていると、ちょっとすまし顔の魚たちからはその様子は伝わりません。以前から博物館の中で見学の方々や、サマースクールなどの参加者から水槽の裏側を知りたい、見たい、体験したいとの要望がありました。
 そこに飼育係の体験会を開催できないかとの提案が持ち込まれました。連続して何回もということでしたが、とてもそんなにはできそうにもありません。海洋科学博物館の仕事の一部でも理解していただくよい機会です。いろいろ検討してみましたが、ともかくこの春休みの一日、海洋科学博物館で海の生き物の飼育係の体験会を開きました。清水静岡の小学校5・6年生を対象に募集しました。すると6人の定員に対して44名が応募してきました。せっかくの応募に、ほとんどの方をお断りしなければならないのは残念だったのですが、飼育係が働く水槽の裏側はそれほど広くありません。無理をして多くの方に来ていただいても見学するだけで私たちと一緒に飼育作業ができません。
水槽と子供たち

 普段の飼育係の毎日の仕事で時間的に多くかかるのは、餌に関わることです。思いつくままに挙げると、魚屋さんに餌を注文する、餌を作る・育てる、餌を与える、餌の食べ具合を観察する、水槽の餌の残りを取り上げるなど次々浮かびます。こうやって改めて考えると一日の多くは餌のことです。この仕事以外にも、けがや病気の予防と治療、水質や水温を調整、水槽の掃除などがあります。自然から比べて狭い水槽で飼育するのですから魚の組み合わせや数にも気を配らなければなりません。


包丁で餌作り 出刃包丁を使ってアジの切り身を細かくする。日頃使ったことがないので緊張しています。出刃の重さにもびっくり。

アサリの殻を開く アサリの殻を開いて剥き身をつくる。

プランクトンの培養 仔魚に与えるプランクトンの培養。水槽で生まれた魚たちを育て上げるのにとても大事な作業です。

前日の餌を取る 前日の餌の残りを取り上げる作業。魚たちの食欲がわかり、健康状態のチェックになります。

水温の記録 水温を測って飼育記録に記入。

魚の観察 与えた餌をちゃんと食べているか観察。魚たちみんなに行き渡っているか、食べられない魚がいるのは餌が足りないのか大きさが魚の口と合わないのかもしれません。

海洋水槽で投餌

海洋水槽に与える餌の説明を受けてこれから投餌。種類は、いろいろな大きさに切ったアジ、イカ、イワシ、オキアサリです。

感想発表会

最後にみんなで集まって、わからなかったこと、感想、もっとやってみたかったことのお話をしました。実際に飼育作業でもその前や後に打ち合わせをして順調に仕事ができるようにします。


 今回の水族館の飼育係の体験は一日、それも昼間だけのことでした。生き物の飼育には夜中や早朝にも仕事があります。水族館では消灯の少し後に子供の魚が卵から孵ります。短い時間の体験だけでは仕事のほんの一部分しか判りません。また自分で世話をした魚が成長する様子も見られません。飼育係にとってこの様なことが一番の楽しみといえます。
 水族館では新しく入ってきたばかりの魚たちには特に注意します。新しい環境になれるまでなかなか餌を食べてくれないことがあります。去年の春に運ばれてきたキンメダイは7ヶ月も絶食していました。ガリガリに痩せていたのがある日パクッとアジの切り身を食べてくれたのです。その日を境にどんどん餌を食べてじきにふっくらとしてきました。これは極端な例ですが、魚が餌を食べ始めたと言うことは水槽での飼育に慣れたことの証明です。これも飼育係にとってうれしい瞬間です。

 今回の体験会に申し込まれて、参加できなかった方たちも、海洋科学博物館ではこの夏休みに、内容は少し違いますが小学校5年生を対象に海の魚についてのサマースクールを行いますので機会があれば応募いただきたいと思います。問合わせて下さい。


『海のはくぶつかん』Vol.27, No.3, p.4〜6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室水族課

最終更新日:1997-06-10(火)
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