■『海のはくぶつかん』1997年1月号

海にすむ「ウシ」

岡 有作 

 1997年の干支は丑(ウシ)年です。それにちなんで海にすむウシを集めてみました。海にすむウシといっても牛ではありません。名前にウシの付く動物を集めてみました。

 まずはウミウシです。ほとんどが小型で海底にすむ動物のグループです。小さいながら2本の触角をウシの角に見立てたものです。
ゴマフビロードウミウシ シラライロウミウシ キイロイボウミウシ アオウミウシ

 ウミウシは軟体動物後鰓類に属しています。タコ・イカや貝のうちで巻貝の親戚にあたります。後鰓類は、背中の後ろ寄りにある花びらのような鰓が心臓よりも後ろにあることから名付けられました。ウミウシの仲間は貝殻から抜け出して体の形が自由になりました。それで様々なかつ奇妙な形のものが多く見られます。
 色彩も鮮やかです。貝殻がなくなった代わりにくさい臭いや毒の棘で身を守るようになりました。食性も種類ごとにまちまちで、与える餌がむずかしく水族館でも長期の飼育が困難です。また、本来の寿命も短く、産卵を済ませるとほとんどのウミウシが死んでしまいます。

ウシノシタ(牛の舌)

シマウシノシタ  カレイの仲間でササウシノシタ科・ウシノシタ科に属しています。フランス料理のムニエルで賞味されるシタビラメ(舌平目)も近縁です。背ビレ、尾ビレ、腹ビレが連続していて、からだ全体の形・大きさが牛の舌のように見えることから名付けられています。名前にウシノシタとつく仲間はササウシノシタ科とウシノシタ科を合わせて20種類近くが知られています。
 この種類の属するササウシノシタ科の多くは暖海の浅い砂の海底にすんでいます。尾ビレの斑紋は、襲ってくる外敵から体の前後を見誤らせる効果があるのでしょうか。飼育していても目のまわりとこの部分だけを砂の中からのぞかせていることがよくあります。現在展示しているシマウシノシタの尾ビレの一部はかじられてなくなってしまいました。近縁の仲間たちに、体表の色や柄で底質にまぎれる工夫やさらには毒を出して捕食の被害から逃れようとするものがいます。このシマウシノシタも海から取り出してみると鮮やかな模様でとても目立ちますが、海底で少しでも砂をかぶると輪郭も判らなくなり迷彩模様の効果があるようです。それにしても水槽で展示しても昼間は砂にもぐって餌の時か夜中にしか出てこないので皆様に見ていただきにくい魚の一つです。

コンゴウフグ

コンゴウフグ  ハコフグの仲間です。和名には「ウシ」は入っていませんが、目の上から前方に突き出した2本の角のような突起から、英名ではCow fishと呼ばれます。和名よりも直接的な表現で分かりやすい命名だと思います。

ウシエイ

ウシエイ  からだ全体が黒く、2m以上にもなり大型で牛のようだ、ということから名付けられました。以前、当館の海洋水槽で飼育していましたが、今はごく近縁の、名前も紛らわしいホシエイを展示しています。

ウシバナトビエイ

 トビエイの仲間は外洋を泳ぎ回るものが多く、スマートな外観をしています。鼻面が牛の鼻のように見えるところから名付けられました。その姿と顔つきの落差には笑わせられます。

ウシエビ

 クルマエビの仲間でやはりウシエイと同じようにこの仲間内では少し体が大きいのでつけられました。ブラックタイガーという商品名で輸入されています。

ステラーカイギュウ

 「海牛」と書いてウミウシと読まずにカイギュウと読めば海にすむ哺乳類で、ジュゴンの仲間です。今は絶滅してしまいましたが、隣の自然史博物館にはステラーカイギュウの化石の骨格標本が展示されています。

 思いつくままに「海にすむウシ」を紹介してきましたが、いずれも「牛」のからだの全体や部分の特徴を取り入れて名付けられています。角、舌、大きな体からの連想ゲームのようです。
 1月2日からしばらくの間、ウミウシたちを特別展示しています。いずれも小さい生き物なのでズームアップの装置(Vol.22, No.4参照)を使って全身や体の各部を拡大して観察できるようになっています。また今までに駿河湾で採集されたことのあるウミウシも映像で紹介しています。小さな生き物の不思議な美しさをご覧ください。ウミウシのほかにも館内の水槽には、この中で紹介した「牛」のつく動物が展示してあります。


『海のはくぶつかん』Vol.27, No.1, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室水族課

最終更新日:1997-03-18(火)
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     東海大学社会教育センター
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