海洋水槽に入れると、腹のあたりに輸送中についたと思われる、すり傷のようなものがあるものの、すぐに2尾一緒にゆったりとならんで泳いでいました。翌日には、それまでいたマダラトビエイも一緒に泳ぐようになり、3尾そろって泳ぐ姿は、なかなか迫力があります(写真2)。
もともとマダラトビエイはおとなしく、仲間同士でけんかをすることも少ないと聞いていましたが、仲良く並んで泳いでいる姿を見て、安心しました。
水族館で、新しく魚が入ってくると初めは病気や傷等、搬入時の魚の状態が一番気になります。しばらくすると、次は餌を食べてくれるかが気になります。ほとんどの魚は、しばらくして環境に慣れてくると、徐々に餌を食べてくれるようになりますが、中には何ヶ月たっても餌を食べてくれない、頑固者もいます。
それまで飼育していたマダラトビエイは、運ばれてきた直後から盛んに餌を食べたようです。けれど、今回入ってきた2尾のマダラトビエイは、なかなかの頑固者で、餌を食べてくれるまでいろいろと苦労させられました。
はじめはそれまで飼育していたものと同じように、水槽の上からアジやイカを投げ込んで与えて見ましたが、1週間たってもいっこうに食べようとする気配がありません。自然界では、砂の中にいる貝やエビ等を探し、食べているので、ウチムラサキガイという大きな2枚貝も与えてみましたが、食べてくれません。やむをえず、水槽内に潜って強制的に餌をエイの口に持っていき、食べさせることにしました(写真3)。
潜って間近で見ると、想像以上に体は大きく、チラリと見える大きな歯が恐ろしく感じられます。初めは、餌を与える時に、手も一緒に食べられてしまうのではないかと心配でした。ただ、マダラトビエイの歯は、餌をかみ切るのではなく、かみ砕くような、すり鉢状の構造になっているため、実際はそれほど危なくありません。
強制給餌も始めのうちは、餌を口の中に押し込んでもなかなか食べてくれません。けれど2〜3日すると、アジやイカは食べないものの、貝を殻ごとバリバリと独特の歯でかみ砕きながら、食べるようになりました。1〜2週間もするとずいぶんと人にも慣れ、潜るとすぐ近くに寄ってきて、餌をねだってきます。
この頃には、大きな方のエイは何でも食べるようになりました。水槽の上から投げ入れた餌に対しても、まるで掃除機が吸い込むようにどんどん食べていきます。多い日には、1日にアジを10尾近く、食べてしまうこともありました。
それに比べて、小さい方は、なかなか思ったように餌を食べてくれません。貝はよく食べるものの、他の餌は口の中に入れても、すぐに吐き出してしまいます。貝だけでは、どうしても栄養が偏ってしまうため、長期間飼育していくうえでは、何とか好き嫌いを無くさなくてはなりません。しかたなく、アジやイカの大きさを変えてみたり、餌の種類を変えて、イワシやエビなども与えてみましたがまったく食べてくれません。
そこで、大好きな貝にアジをはさんであげてみました。すると、餌を嫌がらず口の中に入れて、噛んでいるのが見えたので、やっとアジを食べてくれたと思った瞬間、見事にアジだけを吐き出してしまいました。このようなことを繰り返して、およそ1ヶ月が過ぎようとしていたある日、うれしいニュースが飛び込んできました。マダラトビエイが、子供を産んだのです。驚いて見に行くと、親そっくりのかわいい子供がいました。産んだのは、新しく入ってきた大きなメスで、夜中から明け方にかけて産んだようです。
『海のはくぶつかん』Vol.26, No.6, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)