■『海のはくぶつかん』1996年9月号

駿河湾で見られるハナダイの展示

 舟尾 隆 

 みなさんは「ハナダイ」という魚を知っていますか? あるいはどんな魚をイメージしますか?魚釣りをする人ならマダイ・チダイの幼魚を想像されるかもしれません。
 ここでお話しする「ハナダイ」は、多くは名前に「・・・ハナダイ」とつく魚たちで、学問的にいうとスズキ目ハタ科キンギョハナダイ属・ナガハナダイ属・アズマハナダイ属などの約15グループに分けられた約40種類の魚たちをいいます。そして、新種が今も発見されている仲間なのです。そのうち、駿河湾には約20種類のハナダイが観察されます。
 ハナダイは、大きい種類でも、全長30cm程度にしかなりません。しかし、体色が赤・オレンジ色を基本色として、黄・青・黒色などがちりばめられていて、サンゴ礁の魚たちにまけないくらい美しく、駿河湾でもとても目立つ魚たちです。そんなハナダイたちを、当館では開館以来生態研究を行い、多くの新しいことを明らかにしてきました。そのうち、成長途中でメスからオスに変わっていく現象を多くの種類で確認してきました。
 駿河湾で見られるハナダイの多くは、水深40m以深に生息しており、数の少ない種類が多く、水族館でもなかなか搬入展示されることはありません。当館では、開館以来駿河湾で見られるあのきれいなハナダイたちを観察していただこうと思い、飼育を試みてきましたが、収集方法や飼育環境などが整わず、2種類しか飼育展示することができませんでした。
 しかし、ハナダイの展示はずっと考えており、ようやく収集方法・飼育環境を整えることができたので、駿河湾で見られるうちの9種類を展示できるようになりました。今回は、そのうちの数種類をご紹介しましょう。

写真1.サクラダイ サクラダイ(写真1.)
 駿河湾では、水深20mほどでも見られますが30m以深でよく見ることができます。以前はオスのサクラダイのことをオウゴンサクラダイといって別の種類としていたことがありました。当館では開館以来サクラダイを展示しており、水槽環境が整った今では、産卵が見られるようになりました。残念ながら産卵は閉館後なので、みなさんに観察していただくことはできません。

写真2.キンギョハナダイ キンギョハナダイ(写真2.)
 本種もオス・メスが別種とされていたことがある種類です。駿河湾ではもっとも浅いところで観察されるハナダイで、水深10mほどでも観察することができます。当館の水槽でも活発に求愛産卵行動を行っています。始めに書いたサクラダイとちがって、開館時間内に求愛産卵行動をしているので、観察していただけることと思います。

写真3.ナガハナダイ ナガハナダイ(写真3.)
 水深30m以深の転石地帯に少数の群れを作っています。ちょっとキンギョハナダイに似ていますが、もっと大きくなります。求愛行動をしているときのオスは、さらにあざやかな体色となります。時々水槽内でメスに求愛行動をしています。ひょっとすると夕方に産卵が見られるかもしれません。

写真4.ツキシマハナダイ シキシマハナダイ(写真4.)
 駿河湾では水深70mほどの転石地帯に群れを作っています。かなり遊泳性の強い魚で、水槽内を活発に泳ぎ回っています。

写真5.アズマハナダイ アズマハナダイ(写真5.)
 水深70mほどの砂地にすんでいます。あまり大きくならない種類で、尾鰭のつけねの赤い斑紋が特徴です。あまり泳ぎ回ることなく、水槽底や岩かげに身をひそめるようにしています。

写真6.スミツキハナダイ スミツキハナダイ(写真6.)
 水深90mほどの海底付近にすんでいます。かなりめずらしい魚で、私たちもあまり見ることはありませんし、生態写真もないようです。水槽では、きまった岩かげ付近であまり動き回らずにじっとしていることが多く、注意して観察しないと気づかないことが多いようです。

写真7.アカオビハナダイ アカオビハナダイ(写真7.)
 駿河湾では、水深50mほどで小さな群れを作っていますが、鹿児島湾ではもっと浅いところで多数観察できるようです。


 最初にお話ししたように、駿河湾には約20種類のハナダイが見られます。これらのハナダイは、まだ生態が不明な種類も少なくありません。そしてまだまだ新しい種類が見つかるでしょう。
 当館では、今まで紹介してきた種類を含めてサンゴ礁の魚たちに負けないくらいにきれいな駿河湾のハナダイたちを、みなさんに見ていただき、またさらに魚の観察を続けて少しずつでも新しい生態を明らかにしていきたいと思います


『海のはくぶつかん』Vol.26, No.5, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  ふなお たかし:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-10-12(土)
〒424 静岡県清水市三保 2389
     東海大学社会教育センター
        インターネット活用委員会