■『海のはくぶつかん』1996年5月号

アメリカの博物館にふれて

 佐藤 猛 

 全国科学博物館協議会が主催する「海外科学系博物館視察研修」に、今年も当館から参加することになりました。今回は、バンクーバーを含めた北米西海岸が視察の地となります。一行の目的は科学系博物館の視察ですが、実際は公式訪問6館を含めて、自然史博物館や水族館なども訪れ、あっという間の2週間でした。
 ここで、視察研修の感想を交えながら3つの館をご紹介したいと思います。

モントレーベイ水族館』:サンフランシスコ
タッチプール  1月12日の夕刻に成田空港を飛び立ち、サンフランシスコに着いたのは同日の午後でした(時差の関係で当日の朝となり少し得したような気になるが、帰りは当然その逆になる)。モントレーベイ水族館へ行く途中、景色がきれいなカーメルに立ち寄りました。晴天に恵まれたこともあって紺碧の海とゴミが全く無い白い砂浜はとても美しく、カリフォルニアアシカやケルプ(海藻)の上を漂うラッコを見ることが出来て感激しました。
 全米で最大規模といわれるこの水族館は、キャナリー・ロウ(軒並にある缶詰工場)の一角を1984年に作り変えて出来たものです。
 館内に入ると、まず大型水槽が目に入ります。水槽内には、ジャイアント・ケルプが揺らいでいて、ケルプの森といわれるこの水槽は水深9m、1000tの容量を持っています。次に、モントレー湾に棲む生き物たちが展示されていますが、この中で一つ変わっていたのは、直径1.5m程の円形ドームが内側に凹んだ水槽です。中を覗き込むと、まるで水槽内に潜ったような錯覚に陥るので面白いと思いました。展示室内には、タッチプールの他にも触れてみるコーナー(Kelp lab、コウモリエイのプール、海性哺乳類について)があり、それらはボランティアによって解説がなされています。
 訪れたときは新館を建設中で、今年の3月にオープンするということで工事中でしたが見学させて頂きました。1階が深海生物で2階は外洋性の生物展示が主になるといい、2階の入口には直径4m程の上部がイワシの回遊水槽になったドームがほぼ完成していました。また、マグロなどの大型回遊魚やマンボウが入った巨大水槽もあり、ケルプの森の水槽より数段大きくて見ごたえがあります。

エクスプロラトリウム』:サンフランシスコ
竜巻の実験  1969年に米国で始めての体験型博物館として開設され、650〜700点のオリジナル展示品が収められています。展示物の製作室が広く、観客から丸見えとなっているのが印象的です。
 今回訪れた博物館のほとんどが地域の学校と密接な関連を持ち、学校教育の一端を担っています。この館での、教育指導を大きく分けると、(1)職員→生徒、(2)職員→教師→生徒、(3)職員→生徒→生徒の3パターンがあり、(1)(2)については他の博物館でもごく当り前のシステムとなっています。(3)の生徒は高校生で学校での単位が加算されると共にある程度の賃金が貰えるというので、ボランティアというよりアルバイトに近いようです。 展示物は音、光、電気などコーナー別に分かれていますが、特に区切られたものはなくて、壁・天井にも色彩を意識したものがありません。ディスプレイに凝りすぎて肝心な展示物の存在が薄くなったり機能性に欠けてしまうようなどこかの国とは、お金の掛け所が違うようです。日本でも移動展示で、この館の展示品が公開されたことがありますが、科学とは面白く楽しいものだという印象を受けたことを思い出しました。

パシフィック・サイエンスセンター』:シアトル
特別展示室  シアトルにはバンクーバからバスで陸路を来ましたが、車で国境を超えるのは初めての経験で、高速道路の料金所みたいな感じです。ただ、空港でも見られたように麻薬犬が落ち着きなく動きまわっています。たまたま犬の機嫌が悪くて訳もなく吠えられたらどうするの?そんな話が一行のバスの中で聞かれました。
 サイエンスセンターは子供たちを対象にしているということで、触れて・見るという参加性を主体にしています。展示室は大きく分けると5つあり、(1)プラネタリウムと恐竜ホール(2)サイエンス・プレイグランド・・・バーチャルリアリティーの体験やパソコンゲーム(3)レーザーシアター・・・音楽に合わせてレーザー光線が飛びかう(4)アイマックスシアター(5)特別展示室・・・準備中:小さな生物の巨大化(昆虫の巨大模型や普段見られない大型の虫を展示)となっています。
 サイエンスカーニバルと呼ばれる移動展示では、7台のバンと15名のスタッフでワシントン州の学校を1年に300ケ所巡回するということです。ボランティアはスタッフと同じ仕事をする人から、展示の準備や説明、事務の仕事などに分かれていて、まずセンター全体の教育から始まります。その後、各部署の教育担当が指導を行うということで、ボランティアといえども、まじめに仕事をしないとスタッフ同様クビになるということなので片手間ではできないといいます。

サイエンスセンターのタッチプール  今回、北米地域のいろいろな博物館を視察しましたが、そのなかで気が付いたことは科学館でありながら本物の生き物(小動物や昆虫・魚など)を飼育展示して見せているということです。シアトルのサイエンスセンターには海岸動物のタッチプールまであります。日本では、科学館というと機械的なもの、生き物は水族館や動物園というイメージがあります。生物の動きや仕組みを科学的に理解してもらううえでも、生き物と機械を兼ね備えたほうがわかりやすいでしょう。もう一つは参加性の展示ですが、参加性というよりは、もう一歩踏み込んで自分で考えながらものに触れたり作ったりするという、創造性を高める展示が多いということです。参加性といっても作られたプログラムのなかで行うのではなく、自分から物事を行うことで理解を深めていくという方法は素晴らしいことだと思います。最近、子供たちの科学離れという言葉を耳にします。しかし、今回訪れた科学館や水族館では子供たちがみんな楽しみながら見学しています。そこで感じたことは、まず身近なものに触れたり体験させたりすることによって興味や好奇心を湧き立たせ、それをもとに科学へと導くことが出来れば科学離れを解決する一つの方法となるでしょう。



『海のはくぶつかん』Vol.26, No.3, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  さとう たけし:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-05-26(日)
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