■『海のはくぶつかん』1996年3月号

ヒメルリガイの漂着(あれこれ)

岡 有作  

天気図・海流速報  昨年秋の北東の強い風が数日続いたある日、三保半島の真崎灯台の波打ち際に瑠璃色をした小さな粒が打ち上げられていました。あまり多くて砂利の上に青い筋ができるほどでした。その青い粒はヒメルリガイでした。アサガオガイ科に属するこの仲間は、日本近海では5種が知られています。和名と学名のルリガイVioletta属、ヒメルリガイIodina属、アサガオガイJunthina属、科名アサガオガイ科はいずれもその貝殻や体液の色からつけられたものと思われます。この仲間はいずれも貝には珍しく海面に浮遊して暮らしています。殻はとても薄く、体表から分泌する粘液で空気を包み込んで浮袋にしています。海面でクラゲなどを食べ、卵も浮袋の中に産みつけます。一生涯を暖流の中で浮遊生活を送るのです。貝殻を詳しく観察すると、海面側は色が濃く、下になる側は白っぽくなっています。マグロやサバと同様で外洋の生活に適応しています。
 駿河湾の西岸から突き出た三保半島は、反時計方向に回る海流や東寄りの風のため漂流物がよく打ち上げられ、ちょうどトラップのようになっています。この時の海流や風の様子を、水路部の海流速報と天気図から見ると黒潮は本州沿岸に近づいて流れ、日本海に小さな高気圧、太平洋側には前線をともなった弱い低気圧が停滞していました。海岸には色々な物が漂着しますがその時の状況でさまざまに変化します。


『海のはくぶつかん』Vol.26, No.2, p.7(下) (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-05-24(金)
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