■『海のはくぶつかん』1996年3月号

ヤマトメリベ(あれこれ)

鈴木 宏易 

ヤマトメリベ  昨年12月30日のことです。「海に変なものが浮かんでいるよ」という電話がありました。場所は博物館の近くなので、とりあえず見に行きました。変なものの正体はヤマトメリベでした。
 ヤマトメリベはウミウシの仲間で、非常に稀な種類です。以前にも採集したこがあり、その時の個体は全長50cmくらいで、背中に7対の突起を持っていました。今回採集したのは、大きさはほぼ同じくらいで、背中の突起は4対しかありませんでした。どうも弱ってくると、突起が取れやすくなるようです。採集してから予備槽で飼育していましたが、1月2日からこの奇妙な生物を来館者に見ていただこうと思い、展示をすることにしました。
 展示水槽では体をくねらせながら中層をユラユラと泳いでいました。飼育を始めて困ったのが餌です。いったい何を与えればよいのだろうと考え、とりあえず小さなプランクトンからエビ・アサリ・小魚と一通り与えて様子を見ました。ラッパ状の口に餌を入れると口を閉じて餌を包み込みます。どの餌でもこの行動は観察されました。その様子から普段はプランクトンなどの小動物の他にも、小魚や小エビも食べているのではないかと思われました。1月6日には産卵もし、元気そうに思えたのですが、その翌日、水面に浮かんで死んでいました。短い期間でしたが海の不思議をあらためて感じました。


『海のはくぶつかん』Vol.26, No.2, p.7(上) (所属・肩書は発行当時のもの)
  すずき ひろやす:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-05-24(金)
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