■『海のはくぶつかん』1996年3月号

海洋調査研修船“望星丸”へのご招待

荒木 直行 

 東海大学海洋科学博物館では、今までに本学の調査船「東海大学丸二世・望星丸二世」を使って、小学6年生のサマ−スク−ルや一般成人の海洋教育講習会が実施されてきました。この両調査船による海洋調査の成果などは、海洋科学博物館のマリンサイエンスホ−ルに展示されています。しかし、両船も全体的に古くなったので、平成5年に新たに1隻を建造しました(本誌Vol.25 No.1参照)。
 この海洋調査研修船「望星丸」は、海に挑み、海に学ぼうとする皆様方のために作られました。目的は、海洋実習・海洋観測・練習航海・海外研修・一般の方を対象とした海洋に対する教育普及です。本船は第1種国際旅客船として、日本の検査と世界で最も厳しいアメリカの検査に合格し、さらに耐氷構造を持ち、世界中の海を子供から高年齢の方まで、安全で快適な航海ができるように設計されています。本誌上で、この最新鋭の海洋調査研修船「望星丸」について、2回にわたって紹介させていただきます。今回は「望星丸」の概要を紹介します。本船は、総トン数1,777t、全長88m、幅13m、最大乗船人数190名です。エンジンはディーゼルエンジンで2500馬力が2機あります。エンジンなどは、やかましく振動があるのが普通ですが、居住性や水中音響研究のため、船内の静寂性が保たれています。船の通常速力は15ノット(時速に換算すると約30キロメートル)です。
 船を操船する所を、船橋(ブリッジ)と言います。船橋は見晴らしのよい高い所にあり、操舵室と海図室とに別れています。
写真1(船橋)  写真2(船橋)
 操舵室には、黒っぽい色の大きな箱があり、その中には多くの計器類や押しボタンがあって、船の種々の装置をコントロ−ルします(写真1,2)。その主な装置を以下に紹介します。

バウ・スラスター:船首(バウ)を左右に向ける機械で、観測時や入出港時に大変便利です。
舵機用ボタン:舵を動かす機械が船尾の舵機室にあり、その装置をボタンで作動させる。
エンジン操作パネル:エンジンの始動や停止、回転数の調整をしたり、さらに可変ピッチプロペラの翼角を調整する。
エンジン・テレグラフ:エンジンを使用する時に、機関室と船橋との連絡に使用する。
ジャイロ・コンパス:常に真の方位を検出し、船の進む方向を知るコンパス。
自動舵装置:目的とする針路を設定し、自動的に舵をコントロールして、船の進路を保持する。
自動吹鳴装置:汽笛による発音信号、操船の様子を発光信号灯で、近くにいる他の船との交信を自動的に行う。
船内指令装置:船内放送、操船、乗船者招集、および非常放送用に使用する。
レーダー装置: 電波を利用して、本船から陸や物体までの距離と方位を測定する。
音響測深機:主に港付近の水深を測定する。
ドップラーログ:超音波を利用して船のスピードを測定する。
クリノメーター:船の傾き角度を測定する。

写真3(デッカ・ロラン・GPS)  写真4(オメガ・プロッター他)
 海図室は、船の位置を測定するところで、主に下記のような装置があります(写真3,4)。
GPS航法装置:18〜24個の人工衛星を利用して、自船の位置を測定し、目的地までの距離、所用時間、航路偏位などを知る。
ロランC航法装置:定点の2地点から送られる電波信号により、自船の位置を知る。
デッカ受信機:1組の発信局から持続的に発信される長波電波を受け、自船の位置を知る。
オメガ受信機:送信局から発射される複数の超長波を受け、自船の位置を知る。全世界の海域で使える。
カラープロッター:自船の航跡、目的地までの距離、水深、水温を表示する。
チャート・デジタイザー:海図をもとに海岸線及び危険領域等の情報を記憶しておく。
X-Y プロッター:メルカトール図法に基づいて緯度、経度線を描き、その上に自船の航路、航跡を描く。

写真5(無線通信)  船では、主に陸上との交信や、安全な航海を行うための気象情報収集を、各種の無線通信設備で行います。主な装置は、衛星通信A(電話、ファクシミリ) 、衛星通信C(テレックス) 、中短波無線装置800W、国際VHF無線装置、ナブテックス、衛星イーパブ、自動交換電話56回線、気象ファクシミリ・アマチュア無線などです(写真4)。
船室の外側にある平らなデッキは「甲板」と呼び、全面高級なチークの木材が張ってあり、快適な床となっています。種々の作業や運動および休息の場所となります。また地球環境を考慮し、ゴミや汚物を海に捨てないように、焼却炉や汚物処理装置も設置してあります。
 以上、望星丸の概要について簡単に紹介しましたが、この船には将来、船舶職員をめざす本学の航海工学科の練習学生(約20名)が、航海士の勉強のため乗船しています。
 次回は、本船の主要目的である最先端の海洋観測について、約20数種類の最新鋭のハイテク観測設備を紹介していきたいと思います。


『海のはくぶつかん』Vol.26, No.2, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)
  あらき なおゆき:望星丸船長

最終更新日:1996-06-08(土)
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     東海大学社会教育センター
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