■『海のはくぶつかん』1996年1月号

キハッソク(あれこれ)

鈴木 宏易 

キハッソク  時々、博物館に「珍しい魚がとれたから取りに来てください」という電話があります。このような時にはなるべく都合を付けて取りに行きます。
 昨年9月24日に「熱帯魚が取れたから」という電話がありました。場所は清水港で、博物館から10kmほどの距離にある対岸です。
 「清水港で熱帯魚?」魚種の見当もつかないままとりあえず見に行きました。
 現場に着くと人だかりができていました。早速魚を見せてもらったところ、キハッソクという名の魚でした。
 取れたのは幼魚で、全長4cm位、体色は全身少し透き通った黄色をしていました。そして、背鰭の第2,3棘が糸状に、体の何倍も伸びていました。
キハッソクはヌノサラシ科の魚で、この仲間は危険を感じると、皮膚からグラスチミンという粘液毒を分泌する習性を持っています。成長すると背鰭の糸状に伸びていたものは縮まり、体に2本の紺色の横縞が現れます。幼魚の時は海の表層を泳いでいるのですが、成長するにつれ、岩や珊瑚などがある海底付近で生活するようになります。
駿河湾では秋になると、黒潮に流されてきた熱帯性の魚が時々見られます。その魚たちの大半は、冬を越せずに死んでしまいます。キハッソクは、暖かい海を好む魚ですが、駿河湾でもなんとか冬を越すことができるようです。今回引き取ったキハッソクは、寒い冬を暖かい博物館で過ごせそうです。


『海のはくぶつかん』Vol.26, No.1, p.7(下) (所属・肩書は発行当時のもの)
  すずき ひろやす:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-05-24(金)
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