■『海のはくぶつかん』1995年11月号

クロスズメダイの育成(あれこれ)

田中 洋一 

写真  クロスズメダイはスズメダイ科ヒレナガスズメダイ属に属し、成長すると体長15cmほどになる比較的大型のスズメダイです。本種は過去当館でも何度か飼育したことがありますが、5年ほど前から飼育していた個体(雄1尾、雌2尾)が昨年8月に始めて産卵しました。そこでこれらの卵を飼育したところ、1年以上たった現在約400尾が、全長3〜6cmに成長しましたので、経過を簡単にご紹介します。産卵は1994年8月初旬に初めて行われ、今年の5月中旬までの約10ヶ月間に26回が繰り返し行われました。受精卵はクマノミ類を除くスズメダイ科魚類の中では大型に属し、長径が約1.8mmの繭型をした沈性卵で、産卵床として設置した素焼きの土管の内壁に一層に産着されていました。孵化は飼育水温約26℃で、受精からほぼ一週間後に行われました。孵化直後の仔魚の大きさは約3.7mmで、眼は黒化していて機能的となり、口と肛門も既に開いているなど、器官がかなり発達したものでした。各産卵回とも仔魚は孵化直後から、餌として与えたシオミズツボワムシをよく食べて生長も早く、孵化20日後頃には着底個体も見られるほどでした。しかしこの頃になると決まって寄生虫が発生し、1〜2日のうちには全滅するといったことを繰り返しました。薬を使えば寄生虫は駆除できるのですが、仔魚や初期稚魚の段階での投薬はむしろ魚を殺す結果にもなるので大変困りましたが、工夫を重ねた結果何とか育成に成功することができました。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.6, p.7(下) (所属・肩書は発行当時のもの)
  たなか よういち:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-05-24(金)
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