■『海のはくぶつかん』1995年11月号

海を知らない魚たち
繁殖賞もらった! フグ目編

田中 洋一 

 先回は繁殖賞を受賞したクマノミ編をご紹介しましたが、今回は第2弾としてフグ目編をご紹介しましょう。フグ目に含まれる魚類は、高級魚として有名なフグ科のトラフグを始めとして、カワハギ科やマンボウ科などがあり、日本産としてはこれまでに2亜目10科49属115種が知られています。フグ目魚類の分類に詳しい松浦啓一氏によると、フグ目魚類の特徴は、「体はモンガラ亜目魚類では側篇し、フグ亜目では卵形。口は小さく、ギマ科を除くすべての種類で突出させることができない。歯はモンガラカワハギ亜目では、癒合することはなく通常の形態をしているが、フグ亜目では癒合してくちばし状となる。腹鰭は退縮しているか、または、消失している。第1背鰭はモンガラカワハギ亜目では棘条のみからなり(ハコフグ上科を除く)、フグ亜目では消失する。」とされています。
ギマ

 当館ではこれまでに、フグ目魚類としてはギマ科のギマ、カワハギ科のアミメハギとソウシハギおよびハリセンボン科のハリセンボンの合計4種の産卵を観察し、ソウシハギを除く3種については親魚までの育成に成功することができました。そしてこのうち、ギマとハリセンボンについては繁殖賞を受けることができましたが、残念ながらアミメハギについては申請の手続きの機会を失い、そのままの状態になっています。
 そこで今回は、ギマとハリセンボンについてご紹介することとし、アミメハギについてはいづれ再び育成に成功した時点で、ご紹介することとします。

ぎま

ギマ

 本種は館山湾以南のインド・西部太平洋の沿岸域に分布しており、静岡県の浜名湖や三河湾では食用対象種として利用されています。尾柄部が極めて細く、深く二叉した尾鰭が特徴的です。成長すると全長30cmほどになります。1981年に受賞しました。
 孵化20日を過ぎた時点では、体色は茶褐色で極端に側篇しており、カワハギ科の魚によく似ています(写真1)。
 孵化後1ヶ月を過ぎると、体色は銀色となりますが、体型は菱形をしており、親のそれとは違います(写真2)。
ギマ

 孵化約50日後には、背側の一部はやや緑色を帯びますが、未だ黄色味を帯びた銀色が強く、特に腹面が黄色味を帯びる点は成魚のそれとは相違します。また、体型的にも成魚に比べ吻が長く、体高の割合も大きい点で相違します(写真3)。
 孵化3ヶ月を過ぎると、体型・体色ともに親魚とほぼ同様となりました(写真4)。

はりせんぼん

ハリセンボン  ハリセンボンは世界の暖海に分布し、長く大きな鋭い棘が全身をおおうことで、よく知られています。
 因に、約束ごとをするときに「ウソついたら、ハリせんぼんのーます」の針千本とは違いますので、念のため! 1979年に受賞しました。
 繁殖したハリセンボンは、同じ卵から孵化した仔魚でも2ヶ月後には、体色が青色と黄色味を帯びた茶色の、異なる2つのタイプが見られました(写真5)。この頃は、相互に闘争が見られました(写真6)。
 孵化3ヶ月が過ぎる頃までは、腹側にも黒色の斑点が多数あって、親魚のそれとは相違しますが(写真7)、4ヶ月後にはその数も減少するほか、背側の模様も親魚のそれに似てきます(写真8)。 そして孵化半年後には、体色が青い個体も、黄色い個体も、全て成魚のそれと同様となって大きさが小さい以外は、ほとんど親魚と区別できないほどになります(写真9)。
 海産魚類を仔魚から育てる場合の餌は、多くは孵化後しばらくはシオミズツボワムシ(培養した大変小さな動物プランクトン)を与え、成長にともなってアルテミア孵化幼生、魚卵(タラコ)、魚貝肉のミンチといった順序(餌料系列)です。しかし、ハリセンボンの場合はアルテミア孵化幼生以後の餌が見つからず、当時は大変苦労しましたが、育成当時は夏季で、水溜りにボウフラが発生していたのを与えたところ、積極的な摂餌が見られました。その後はイソガニなどの稚ガニを良く食べて何とか育てることができました。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.6, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  たなか よういち:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-05-24(金)
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