■『海のはくぶつかん』1995年11月号

新しいメカニマルのデビュー

佐藤 猛・石橋 忠信 

◆エイ型メカニマル『ハバタキマンタ』の製作

 当館のメクアリウム(機械水族館)には、今までに35種類のメカニマル(機械生物)が展示されてきましたが、多種多様な海の生き物を再現するという点では、まだまだそれらのごく一部でしかありません。そこで、メクアリウムの改装にともない、新しいメカニマルを誕生させることになりました。
 今回はプールの仕様が大幅に変わり、以前よりも大きくなって水中の部分も見られるようになったことと、3Dハイビジョンにでてくるオニイトマキエイ(マンタ)がなかなかの人気であることから、これをモデルにした泳ぐメカニマルを作ることにしました。エイ型のメカニマルには「ヒダベリエイ」という鰭を波打たせて泳ぐタイプのものが既にありますが、エイにはイトマキエイのように水中を羽ばたくようにして泳ぐものもいます。当館の海洋水槽にはトビエイが飼育展示されていて、このエイもイトマキエイと同じような泳ぎ方をします。この泳ぎをビデオに撮り、また3D映像に収められているオニイトマキエイを見て、鰭の形や泳ぎ方などを観察しました。
写真  製作にあたって今回の最大のポイントは、そのしなやかな鰭の動きです。今までのようなステンレスや塩化ビニール板だけの鰭では、このような動きを作り出すことはできません。以前ご紹介したキカマンボウ(本誌 Vol.15 No.5参照)では、ゴムシートを使うことで鰭の動きを作り出しましたが、鰭自体にもっとしなやかな動きが必要となるため、これもそのまま使うというわけにはいきません。いろいろ試作しているうちに薄いステンレス板のしなやかさとゴムシートの柔軟性を組み合わせれば出来ることがわかりました。鰭の前半分にあたる部分には薄いステンレス板を使い、その後ろにゴムシートを取り付けることで鰭に伸縮性を持たせました。また、鰭の最前部に厚みの異なった薄いステンレスを重ね合わせ、ここでしなり具合を調整しています。2つの素材を複合して使うというのは、今までのメカニマルの鰭にはない初めての試みです。
写真  次は、その鰭を動かすためのメカの部分ですが、エイは平らな体に水平に広がった左右の大きな鰭が特徴です。できるだけそれに近いものにと、形を考慮に入れて製作にかかりました。モーターの回転運動を一度往復運動に変え、それを左右の鰭が上下同じ方向に振れるように動きを伝えます。しかし、大きな鰭を左右同時に動かすということは、モーターの力強さ(トルク)はもとよりメカ自体にもかなりの強度がいることになります。試作の段階で、空気中ではうまく動いてくれたのに、水中に入れてみると水の抵抗が鰭に直接当たりモーターの力が弱くて思うように鰭を動かしてくれません。そこで、モーターのトルクを大きいものにしたところ、今度はメカの一部が折れてしまったというオマケまで付いてしまいました。メカの強度を上げるということは骨組みとなるアルミ材の厚みが増して重くなるということです。体が重くなれば浮力体も大きくなって、平らなイメージのエイがこのままではフグに変わってしまいます。何度かの改良を重ね、曲げたアルミ材を使うことで強度を出し、なおかつ軽量化をはかることでようやく完成となりました。
 名前も決まり、羽ばたくように水面を泳ぐことから「ハバタキマンタ」とつけられました。
 さて、ハバタキマンタの泳ぎ具合はと申しますと…。それは、実際にメクアリウムを訪れて新しくなったプールで泳ぐ姿を水面と水中から見て頂ければと思います。

◆『ヤツアシカンガエビ』の登場

 次に、考えるコーナーの新しいメカニマルをご紹介しましょう。今までこのコーナーには「ミツメムレツクリ」が展示されていましたが、製作から長い時間がたったので修理用の部品が手に入らなくなったり、本体のフレームが割れてしまったりしていました。
 今回の改装でもう一度同じ物を作っても良かったのですが、メクアリウムができてからの17年間に電子機器が進歩しましたから、コンピュータを使って新しいメカニマルを作ることにしました。
 ところが、ミツメムレツクリが処理していた情報を現在のコンピュータで処理すると、かなり小さくする事はできるのですが、皆さんに見てもらおうとするとちょっと小さすぎるようです。
 そこで、いろいろ考えていた時に、6本足のロボットを見る機会がありました。このロボットは情報を処理する方法として、アメリカのマサチューセッツ工科大学で開発された行動型人工知能と呼ばれる新しい制御方法を使った昆虫型のロボットでした。このロボットを調べてみると、足の数やセンサを追加できそうだったため、メーカーと相談して8本足のメカニマルを作ることにしました。
 このメカニマルは足を使って海底を歩く動物ということで、イセエビをモデルにしました。実際のイセエビは10本の足を持っていますが、ここでは8本だけにしました。
 展示としては、イセエビの一日の行動を想定し、夜になると動きだすこと、餌を食べること、天敵から逃げること、などを取り入れたプログラムを作りました。また、この内容に合わせて、ステージにはメカニマルの巣と餌を取り付けてあります。
 このメカニマルは歩いて移動しますから、床はデコボコでも構わなかったのですが、解説をする時の歩きやすさと掃除のしやすさを考えて平らな床にしてあります。しかし、それでは物足りない感じがするので、餌はまとめて餌場に取り付けることにし、巣から餌場までの間に段差を付けてメカニマルの邪魔をしてみることにしました。
 このような作業を進めながら、メカニマルの名前を考えていたのですが、今回は少しでも多くの方に親しんでもらえるように、皆さんから名前を募集することになりました。その結果、約800通の応募をいただき、その中から「ヤツアシカンガエビ」というメカニマルにふさわしい名前を付けることができました。応募して下さった皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げます。
 それではヤツアシカンガエビの行動をご紹介しましょう。解説が始まると、ステージがだんだん暗くなり、ザッザッザッザッという音と伴に、ヤツアシカンガエビが巣穴から出てきます。そして、餌からの光を探して餌場へ歩いて行きます。
 餌場までの道には段差が作ってありますから、中にはうまく登れずにガチャガチャもがくヤツアシカンガエビもでてきます。そんな姿を見て、小さなお子さんが、思わず「がんばれ、がんばれ」と応援してくれることもあり、なかなか可愛いメカニマルになったのではないかと思います。
 さて、こんなヤツアシカンガエビですが、実際に展示を始めてみるといろいろなトラブルが出てしまい、現在もハードウェア・ソフトウェアの改良を続けています。今までに新しく登場したメカニマルたちも、いろいろな改良を受けて一人前のメカニマルに成長してきました。ヤツアシカンガエビもまだまだ改良しなければならないところがありますが、皆さんの人気者になれるよう成長させたいと思っています。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.6, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)
  さとう たけし:学芸文化室博物課
  いしばし ただのぶ:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-09-07(土)
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     東海大学社会教育センター
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