■『海のはくぶつかん』1995年7月号
やどかりいそぎんちゃく(あれこれ)
小林 弘治
ヤドカリは、空になっている巻き貝の殻を利用して生活しています。さらにヤドカリの仲間には、貝殻に大きなイソギンチャクを付けた種類がいます。宿替えの時には、イソギンチャクを剥がして、新しい宿の貝殻に付ける習性もあります。
ヤドカリがイソギンチャクを付けている理由について、20年程前カナダの研究者が「タコからの食害を避けるための適応」だという説を考えました。タコの主な餌はカニですが、ヤドカリも好物のカニやエビと同じ仲間であるからです。
この面白い説を確かめてみようと、当館の水槽で実験を行いました。実験には、ケスジヤドカリにヤドカリイソギンチャクが付いたものと、イソギンチャクが付いていないケスジヤドカリを用意しました。実験はマダコが4尾入っている水槽に、それぞれ2組を同時に入れました。するとイソギンチャクの付いた方は、タコがすぐに襲いかかりましたが、数秒後に長い足でヤドカリを遠ざけ、その後けっして近寄りませんでした。ヤドカリのみの方は、1尾は2時間程で食べられましたが、他の1尾は、タコに近ずきましたが足で押しのけられました。
このヤドカリは、いつの間にかイソギンチャクの付いたヤドカリの上に乗って平然としており、餌を食べる時にイソギンチャクから離れました。
実験の結果、ヤドカリに付いているイソギンチャクは、確かにタコに対する防衛に役立っていると思われました。
『海のはくぶつかん』Vol.25, No.4, p.7(上) (所属・肩書は発行当時のもの)
こばやし こうじ:学芸文化室水族課
最終更新日:1996-05-24(金)
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