■『海のはくぶつかん』1995年7月号

夏の魚『コチ』

鈴木 宏易 

 釣り人は、自分で釣った魚を料理して食べる、というのが一つの楽しみになっているようです。水族館には、魚屋さんではあまり見かけませんが食べると美味しい魚も、たくさん展示されています。その中で、私が「これは旨そうだ」と思うのがコチという魚です。
 コチは、体を上から押しつぶしたような形で、上から見ると頭の部分が三角形になっていて、いかにも「海底の住人」と呼べるような形をしています。体色は淡褐色で全長60cmくらいになります。
 しかし、一般に「コチ」と言った場合、似たような形をした魚を「○○コチ」と呼ぶことがあり、まぎらわしい時があります。ここではっきり区別しておきましょう。

あちこちでコチ

 正式な和名でコチと呼ばれているものは、カジカ目コチ科の仲間で、口が横の方まで大きく裂けているのが特徴です。
 これとは別に、スズキ目ネズッポ科の仲間は同じようにコチと呼ばれることがありますが、本当のコチとは分類的にも縁遠く、口がおちょぼ口で、えら蓋に大きな棘があるのが特徴です。そこで、本当のコチをマゴチと呼んで区別することがあります。
 今回は、そのコチ(マゴチ)についてお話ししたいと思います。
コチ

夏が旬

 コチは本州中部以南に広く分布し、水深数mから数十mの所で生活しています。水温が低い季節は、少し深い海底で、じっと春のおとずれを待ちます。
 春になり水温が高くなってくると、海底を泳ぎまわり餌をあさるようになります。主な餌は、海底で生活しているエビ・カニや自分の頭上を行きかう小魚です。
 夏になると、餌食いはますます盛んになります。また産卵のため親魚は浅いところに移動し、砂や泥、小石が混ざっているような場所に集まって産卵します。
 丸まると太ったコチの身は、とても美味しく、餌食いも良いためこの時期は釣りの対象にもなります。

小さい雄が大きい雌に・・・

 産み出された卵は直径約0.9mmの丸い形で、海の中を、波まかせ風まかせに旅立ちます。ふ化して1年もすると、全長約18cmに成長し、2年で30cm、3年で35cm、4年で40cm、5年で約46cmくらいになるといわれています。また、約35cmまでは産卵のとき雄として機能し、約40cmになると、雌として機能すると言われています。
 この夏、コチ釣りにチャレンジして、御賞味されてはいかがですか。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.4, p.6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  すずき ひろやす:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-05-24(金)
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