■『海のはくぶつかん』1995年7月号

メカニマル型人力船

石橋 忠信 

 今年は私たちの博物館が開館25周年を迎え、これを記念してメクアリウム(機械水族館)を改装することになりました。
 メクアリウムは1978年にオープンして今年で18年目、人間でいうとちょうど高校3年生くらいの年頃になります。
 メクアリウムがオープンした頃は、積極的な海洋の利用ということから海洋開発が叫ばれていました。その中にあって、メカニマル(機械生物)たちは生き物に学んだ移動方法の利用という、環境を破壊しない海洋開発のあり方を皆さんにご紹介し、また、皆さんと一緒に考え始めていました。
 それから丸々17年。社会は大きく変化し、人の立場に立った海洋の利用という考え方から、海洋との共存という考え方に変ってきています。
 一方ではエネルギー資源の問題から、省エネルギータイプの移動方法というテーマが生まれ、いろいろな研究や、海で言えばソーラーボートや人力船といった省エネ船のコンテストも盛んに行われるようになっています。
 私たちの博物館でも、社会の流れに合わせて展示を替え、マリンサイエンスホールで波や風のエネルギーを使って進む船の情報や、「波で進む船」、「波に向って進む船」、「風に向って進む船」といった実際に水槽の中を動くモデルを展示しながら、その時点での研究の進みぐあいをご紹介してきました。
 この間にメクアリウムでもいくつかの新しいタイプのメカニマルが誕生し、皆さんにご覧いただいたり、試作品としてご紹介しているものもあります。この中には泳ぐタイプのメカニマルや歩くタイプのメカニマルがありますが、いずれもステージや水槽の中を動くだけで人が乗れるようなものではなく、いつかは自分たちが乗って動けるメカニマルを作ってみたいと考えていました。
 そして今回メクアリウム改修のプランを立てている時、スタッフの中から「メカニマル型の人力船が作れないだろうか」というアイデアが出てきました。そして私たちの大学からは、いくつかのグループがソーラーカーやソーラーボート・人力船などのコンテストに参加し、優秀な成績を残していたことも思い出しました。
 作る物がメカニマルですから、やはり船で、それも人力船がいいだろうということで、海洋学部から人力船コンテストに参加している先生(船舶工学科:寺尾 裕教授)に相談してみたところ、「作れると思います。大変ですが、何とか協力しましょう。」といううれしい返事をいただきました。
 そこで、さっそくメカニマル型人力船の設計と製作をお願いしたのですが、いくつかのアイデアと、「作った船でそのままコンテストに参加したらどうですか?」という驚くべき提案がなされたのです。
 私たちもいろいろ考えたのですが、「ここまでやるのなら、思い切って参加しよう」ということになり、実際に2隻の試作をお願いすることになりました。まだ設計図しかありませんが、その中から実際に作ってみようと考えているタイプをご紹介してみることにします。

 ■ ススメダイタイプ

写真
 これはススメダイ(写真1)の動作原理を人力船に応用したものです。ススメダイはモーターで尾ヒレを左右に振って進みますが、人力船の方は、人がペダルを交互に踏み込む力でヒレを動かして進みます。
 このタイプは手漕ぎのボートのように自分の後ろに向って進みます。リンクを使って自分が見ている方向に進もうというアイデアもあったのですが、工作が難かしくなることや、これによってヒレに伝わる脚の力が逃げてしまうかもしれないため、単純な構造になりました。

 ■ オオウデウミバシリタイプ

写真
 これはオオウデウミバシリ(写真2)の動作を人力船に応用したもので、人が横向きに乗ってヒレを動かすタイプです。図にあるようなフロートの下にヒレが付いていて、操従者が脚を屈伸させることで水をあおって進んで行きます。
 オオウデウミバシリはメカニマルの中でも優れた泳ぎをしていますから、このタイプの人力船はかなりスピードが出て楽しい船になると思います。

 メクアリウムの改修は、今年の7月中旬にリニューアルオープンを予定していますから、これらのメカニマル型人力船は、製作してもらう先生との打合せや製作が始まっています。早ければ、皆さんがこの記事を読む頃には形ができ上がっていると思います。
 また、私たちの博物館の近くにはプールがありますから、夏休みにはこのプールを利用して皆さんにも実際に乗ってもらおうと考えています。完成する時期やコンクールの日程(7月29・30日)から考えると、7月中の試乗は難かしいと思いますが、できれば参加前の初公開をめざして計画を進めています。そしてその船はコンテストにも出場しますから、皆さんが乗った船が入賞するかもしれませんし、8月に入ってからは入賞した船としてご紹介できればいいなと思っています。
 今年の夏に来館することがあったら、ぜひプールをのぞいてみて下さい。ちょっと風変わりな人力船がスイスイと泳いでいるかも知れません。

資料提供:東海大学海洋学部船舶工学科 寺尾 裕教授


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.4, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)
  いしばし ただのぶ:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-09-07(土)
〒424 静岡県清水市三保 2389
     東海大学社会教育センター
        インターネット活用委員会