■『海のはくぶつかん』1995年5月号

行ってきましたアメリカへ
……アメリカの博物館と利用者の姿……

 岡 有作 

 全国科学博物館協議会(全科協)が主催する「米国科学系博物館視察研修」に参加しました。一行は全国の自然科学系博物館に勤める人や博物館の展示を企画・制作する会社の人たち28名です。
 ニューヨーク、ボストン、ワシントンほか北米東海岸で18の科学博物館・自然史博物館・動物園・水族館などを2週間の日程で視察してきました。視察団の公式訪問は6館ですが、移動日や自由研修の日々にできる限り見て回ったのです。この期間と数ですから博物館の表面を撫でたに過ぎませんが感じたままにお話ししてみましょう。
 博物館側の人間の存在を感じさせないのが日本の博物館のほとんどです。それでも最近では人間と人間の触れ合いを求める声が博物館の内と外から上がっていました。そして少しずつですがそれが試みられるようになってきていました。「最近は博物館もずいぶん変わってきているね」と思っていたのですが、アメリカで見たらまだまだ十分ではないようにも思えるのです。展示物については多くの方たちが紹介されていますので余り触れずにおきます。
 それでは写真を追いながらご紹介して行くことにしましょう。

バスの写真
 アメリカ映画に出てくるあの黄色いスクールバスで博物館に乗りつけた小学校の一団。とても楽しそうで見ているこちらもうれしくなります。スクールバスは各地で見ましたがどれも同じボンネットバスで色は黄色、どうも定番のようです。
子供の写真
 小学生が展示室のジオラマの前の床に寝そべって先生の話を聴いています。後ろから撮った写真なので判らないけれど、彼はちゃんとノートを取っているのです。彼は行儀が悪いのではありません。子供たちは何か一つ事に夢中になると姿勢など構わなくなってしまうのです。この「行儀の悪さ」が先生の話や博物館の展示に夢中になっている証拠です。
ジオラマ
 ジオラマの前で引率の先生の話をもとにメモやスケッチをする小学生たち。ここでも子供たちは思い思いの姿勢です。学校と博物館が協力して、学校であらかじめ勉強してその後で博物館を見学するようです。日本では博物館は遠足の行き先の一つであり、入館してもやかましく、館内をかけ足で次々と見る頃向があります。せっかくいろんな展示物があって、学校で勉強した事を実物や実験装置で確認できるのにもったいない博物館の利用方法だなと、日頃から思っていました。

解説風景  スミソニアンのワシントン動物園の霊長類舎で動物の頭の骨について解説を行うインタープリター(interpreter)です。辞書によると解説者とか通訳の意味がありますが、ここでは展示の持つ意味を正しく見学者に伝えるのが彼等の役割なのです。日本の博物館では、どうせ読んでくれないからとごく簡単なキャプションしか準備していないところもあります。
 展示されているものには外見で分ることだけでなく、内に秘められた事実や裏話がたくさんあるはずです。その意味するところを見学者の理解できる言葉に替えて説明するのが役割です。彼等は採用されると約3か月の研修を受けた後登場し解説を始めます。登場後もさらに知識・技術を深めるために日々反省と学習を継続していくのです。彼等と書いてしまいましたが多くが女性です。ボストンの子供博物館ではインタプリターの希望者が多く10〜15倍の競争率にも上るとのことです。

解説用具

 解説の小道具に各種の哺乳動物の頭蓋骨が用意されています。中には脳の容積を説明するために輪切りにしたものもあります。
クモを見る子供
 タランチュラが生きた餌を捕らえ・食べる瞬間を見せ、生態を説明しています。見つめる目が真剣そのものです。ワシントンの国立自然史博物館にて。
ガイドによる指導
 ボストン美術館での一コマ。子供を対象としたガイドツアーでしょうか。若いインタープリターが子供たちにこの作品の印象を話させています。絵に直接触れても構わないようです。これも日本ではちょっと考えられないことです。同じ館内の別の場所では、年配の女性ばかりを対象としたガイドが行われていました。

 アメリカの博物館がすべて優れていると言うのではありませんが、博物館のあり方・考え方などはやはり先進国です。特に教育活動については学ぶべき点が多く見られました。参考にして取り入れられる点は取り入れていきたいと思っています。ただボランティアについては社会的な認識が違い、博物館だけが頑張っても当分は同じようには実現できないでしょう。日本でできる方法でより良い博物館を作っていけたらと考える今日この頃です。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.3, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-05-24(金)
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