■『海のはくぶつかん』1995年5月号

水槽を見る人を見る
ビデオによる見学者調査

西 源二郎 

 博物館に来た人がどのように展示を見ているかを知ることは、博物館の展示を計画する上でとても大切です。昨年の報告(Vol.24,No.6) に続いて、今回は館内で撮影したビデオを分析した結果についてご報告します。
 調査日は1993年11月7 日のお天気の良い日曜日で、その日の総観覧者数は1,472人、調査場所は円柱水槽、海洋水槽、一般水槽です。水槽を見ている人の行動をできるだけ詳しく知りたいと考えて、円柱水槽では部屋の隅にビデオカメラを置いて広い範囲を、海洋水槽ではアクリルガラスを支える鉄柱の途中にカメラを取り付け、見学者の上方やや前から撮影しました。一般水槽では、ちょうど都合のよい場所がなかったので、思いきって水槽の中に水中ケースを沈めて、水の中からガラス越しに見学者を撮影することにしました。水槽の中から、外にいる人がどのように見えるかも興味がありました。
フロア平面図
 やってみると、観覧通路が水槽よりやや暗いので、少し見にくくなりますが、通路を通る人がちゃんと撮影できました。ガラス面に近づいて水槽をのぞき込む人の行動は非常によくわかります。魚たちは、外からのぞき込む人間をいつもこんなふうに見ているのかと思いました。
撮映した人数の表
 初めの計画では2時間30分撮影する予定だったのですが、途中で水中ケースに水が入ったので50分の撮影しかできませんでした。撮影時刻は水槽によって違いがありますがどこもお昼前後です。

水槽の見方

 見学者の行動は、まず水槽の前に立ち止まったかどうか、次に水槽をどの程度見ていたかで分析しました。水槽内をじっと視線を動かさずに見ているか、あるいは魚の泳ぎを追って見ている行動が画面から明らかに判断できた人を「観察している」、水槽を見ていてもただ見まわすだけか、ほとんど見ていない人を「眺めている」としました。立ち止まって観察している人には、さらに顔を水槽に近づけて「のぞき込む」、魚を「指さす」、「解説板を見る」などの行動が見られました。

どれくらいの人が観察していたか

グラフ
 水槽の前で立ち止まっていた人の割合は円柱水槽で43.6% 、海洋水槽で44.1% 、一般水槽で49.1% で、いずれの水槽でも半数に達していません。水槽を観察していた人の割合はさらに減って、円柱水槽で38.0%、海洋水槽で42.4%、一般水槽で40.1%となります。水槽による観察率の違いは、それほど大きくありません。歩きながら観察した人は円柱水槽で14.4%、海洋水槽で21.7%、一般水槽で16.9%で、海洋水槽は水槽が大きいので歩きながら観察する人が多くなっています。先程の立ち止まって観察した人の割合に、これらを加えるとやっと半数を越します。水槽をちゃんと見ている人の割合は、調査をする前は8割ぐらいはあると思っていたのですが、意外に少ないのに驚きました。

のぞき込んだり、指さす人は

グラフ
 水槽の中をじっと観察しているところから、さらに顔をガラスに近づけてのぞき込んだり、遠くを泳ぐ魚を指さして一緒に見学している人に説明をする、というような行動をどれくらいの人がとっているか調べてみました。水槽をのぞき込んだ人の割合は円柱水槽で20.5% 、海洋水槽で7.8%、一般水槽で12.9% で、平均では13.7% になります。指さした人の割合は円柱水槽で16.4% 、海洋水槽で25.4% 、一般水槽で12.5% で、平均では18.1% になります。これらの行動を別々に集計したので、一人で両方の行動を示した人もいましたが、単純に両者を足すと全体で30% 以上になります。

解説板を見ていた人は

 円柱水槽と海洋水槽の前には、魚の写真に名前を書いた解説板があり、一般水槽では名前だけでなく簡単な生態などを書いた解説板が設置されています。これをどれくらいの人が見ているかを調べてみました。円柱水槽で17.9% 、海洋水槽で22.4% 、一般水槽で11.8% で、平均すると17.4% になります。これを、多いと考えるか、少ないと考えるかは人によって異なると思いますが、私は意外に多かったと思っています。特に海洋水槽で2割以上の人が見ていたのは予想以上でした。最近できた巨大水族館では、魚たちが泳いでいる海を感じてもらえば良いので、解説板はあえて設置してないところもあると聞いています。しかし、今回の調査からは、見学者の方は水族館の見学のときにけっこう解説板を利用しておられることが分かりました。当館では、これからも解説板の充実に努力して行くつもりです。
 この報告は、横浜国立大学工学部建設学科建築計画研究室と共同で行った調査の一部です。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.3, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)
  にし げんじろう:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-05-24(金)
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