■『海のはくぶつかん』1995年3月号

駿河湾の蜃気楼(あれこれ)

 岡 有作 

写真
 蜃気楼というのは地面や海面付近の気温の鉛直の分布が激しく変化しているときに起こる光の異常な屈折現象のひとつです。特に同じ温度の空気の塊がレンズのような形になるとき、地上の物の形が著しく歪曲されたり拡大されて不規則に変形して見えます。この現象は、わが国では富山湾や伊勢湾などで見られて有名です。
 駿河湾では鮮やかな蜃気楼現象は知られていませんが「浮島」のような状態がみられることもあります。この写真は久能海岸から焼津方面を臨んで撮影した時のものです。普段はほとんど見られませんし、もしこの現象が起きていても気がつく人もあまりおられないようです。この場所で蜃気楼が見られるのは日本全体が冬型の気圧配置になり西高東低で北西の冷たい強風が吹き荒れるときにだけのようです。こんな時にはあまり海を眺める気分にはなりにくいと思いますね。駿河湾の海水の温度と安倍川ぞいに吹き下りて来る北風の温度が大きく違うために起きると想像されます。真夏の道路でみられる「逃げ水」現象も同じ原理で起きます。
 皆さんも海に出かけたときに風景を眺めたり、水平線の彼方から現れて来る船の形が変わるのを観察してみて下さい。写真には撮ってありませんが別の場所でも観察したことがあります。蜃気楼は距離によっても見られたりそうでなかったりします。久能海岸からみられる蜃気楼も場所を移動していくと見え方が変化していきます。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.2, p.7(下) (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-09-07(土)
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