■『海のはくぶつかん』1995年1月号

冬の魚 『アカアマダイ』

小林 弘治 

 最近の魚屋の店頭には、一見して周年ほぼ同じような種類の魚が並んでいるように見みえます。しかし、よくみると季節を反映した魚も入荷されています。そのうち冬季には、アンコウやトラフグおよびアマダイなど、寒い時期に美味しい魚が少なからずあります。
 アマダイの仲間は、日本ではアカアマダイ、シロアマダイ、キアマダイなど5種が知られています。いずれも本州の中部以南から東シナ海、台湾にかけて分布し、水深20〜300mのやや深い所で生活します。アマダイの仲間の体の特徴は、バッタのように張り出した頭の形です(写真)。おおむね、体の色の違いで種類が区別できます。
アカアマダイ

 うちアカアマダイは、体が鮮やかな赤色であり、成長すると全長45cmほどになる種類で、最も多く漁獲されています。肉は白く、水分が多くて柔らかいので刺身には向きませんが、吸い物や生干しの焼魚、あるいは京料理の煮付け“ぐじ料理”などに使われ、高級魚として扱われています。最も美味しいのはシロアマダイで、この種は全長60cmになります。
 また、アマダイの産地として有名な福井県の若狭地方では、最近アマダイの資源が減少傾向にあるので、高値で取り引きされるアカアマダイを人工的に増やそうと、1979年頃より試験研究がなされています。本格的な種苗生産技術の確立が期待されます。
 この仲間は、砂と泥が混じった海底にすみ、口に砂や泥を含んで穴を掘って、立派な巣穴を作っり、危険が迫ると巣穴に隠れ込むという、変わった習性を持っています。アカアマダイを水族館の水槽で飼育すると、せっせと底の砂を口に含んで穴を作る様子が見られます。しかし、運び出した砂はすぐに崩れ落ち、部分的にくぼみができるだけです。今後は、さらさらした砂だけを敷くだけでなく、泥や砂利なども混ぜて、厚く敷いてやるとか、もう少し工夫して、アカアマダイが巣穴で生活する様子を観察して頂けるよう努力してみたいと思います。
 当地の静岡県では、肉に脂肪がのる冬季を中心に主にアカアマダイが、延縄などの釣りで漁獲され市場に出されます。また、冬季は遊魚の対象種が少ないので、アカアマダイ釣りでにぎわいます。釣り餌は、好物のエビの仲間のオキアミが使われます。そのうち、清水市の興津付近でとれるアカアマダイは、別に興津鯛という名でも呼ばれています。その訳は、江戸時代に奥女中の興津の局が、生家の興津から取り寄せたアマダイの干物を、徳川家康に献上して喜ばれ、興津鯛の名を頂戴したことに由来するようです。
 また、アカアマダイは、体の大きさによって雌雄の出現割合が異なり、小さな時期には雌が多くて、大きくなると雄が次第に多くなり、成長した大型のものは全て雄とされています。このことから、雌から雄に性が変化する雌雄同体魚ではないかと、以前から考えられていました。そして最近の研究では、雌から雄に性が変わる(雌性先熟の雌雄同体)という報告もあります。我々もアカアマダイの性現象について研究しています。しかし我々の研究では、それとは違う結果を得ておりますので、近いうちに論文を発表する予定です。この研究は、いずれ本誌で紹介したいと思っています。


『海のはくぶつかん』Vol.25, No.1, p.6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  こばやし こうじ:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-08-16(金)
〒424 静岡県清水市三保 2389
     東海大学社会教育センター
        インターネット活用委員会