■『海のはくぶつかん』1994年9月号

ミズクラゲを飼ってみよう

大山 卓司 

ミズクラゲって?
 港の中などでよく見かけるクラゲですね。クラゲと言えば「刺す」というイメージが強いためか、ミズクラゲのことをいわゆる電気クラゲと誤解している人も多いようです。確かにミズクラゲにも刺す能力はあるのですが、その力はとても弱くて、人間には全く無害です。

ミズクラゲの体の仕組み
写真1.
 左の写真は、ミズクラゲを下から写したものです。傘のまわりにある細い糸のような縁触手や中心から伸びる口腕という部分でエサになる小さなプランクトンを捕らえます。胃は、丸い模様のように見える生殖腺の下にあります。触手や口腕で捕らえたエサは、傘の中を通る消化管を通じて胃に運ばれます。
ミズクラゲの一生
 私たちが“クラゲ”として知っているこの姿は、ミズクラゲの一生のうちの一時期の姿でしかありません。では、ミズクラゲが“クラゲではない”時は、どこでどんなふうに暮らしているのでしょうか?

プラヌラ
写真2.プラヌラ
 0.3ミリくらいしかない小さな幼生です。海の中を漂って、付着場所を探し、よい場所(岩や貝殻など)が見つかったらそこに付着します。
ポリプ
写真3.ポリプ
 岩などに付着したプラヌラは、ポリプに姿を変えます。口の周りにある触手でエサを捕らえて食べます。成長したポリプは、分裂をして増えます。
ストロビラ
写真4.ストロビラ
 ポリプは、温度が下がるという刺激を受けると体にくびれをつくり始めます。やがて、くびれの一つ一つがエフィラという幼生になり、先の方から一枚ずつ離れて泳ぎだして行きます。
エフィラ
写真5.エフィラ
 色も形もクラゲとはずいぶん違いますが、海の中を自分の力で泳ぎまわってエサを採り、成長とともにクラゲらしい形に変わって行きます。
クラゲ
写真6.クラゲ
 クラゲにはオスとメスがいて、オスは精子をつくり、メスは卵をつくります。そして、卵が受精すると、プラヌラになります。
 ミズクラゲがエフィラになって海に泳ぎだしてからクラゲとして死ぬまで(クラゲとしての寿命)は、だいたい1年半から2年と考えられています。でも、ポリプは何年も生き続けて何度もストロビラになり、たくさんのエフィラを海に送り出すことができるので、ミズクラゲが卵として生まれてから死ぬまでの寿命と言うのはよくわかりません。

ミズクラゲを採集する
 防波堤の上などからクラゲをすくい採ります。家で飼うのだから、小さめのクラゲを採った方がよいでしょう(家に大きな水槽がある人は大きいのをとってもいいです)。あまりたくさん採っても仕方がないので、形がきれいで元気に泳いでるのを、よく選んで採りましょう。
図:採集道具

 採ったクラゲはバケツなどに入れておいて、何びきかまとまったらビニール袋に移して運びます。魚を運ぶときは、半分くらい空気(酸素)を入れるのですが、クラゲを運ぶときは空気を入れないようにします。クラゲのカサの中に空気が入るのを防ぐためです。
図:採集と運搬


家でミズクラゲを飼う
 クラゲを飼うためには、当然水槽が必要です。大きさは、採ってきたクラゲの大きさ次第ですが、大きめの水槽の方が飼いやすいでしょう。
図:水槽
 水は、クラゲを採ってきたところの海水や人工海水を使いましょう。採ってきたところと水槽の水の塩分量が違うと、クラゲが浮いてしまったり、沈んでしまったりしますが、しばらくするとちゃんと泳ぐようになるはずです。水温は、20℃位あれば良いでしょう。
 水槽の仕組みは、絵を見て下さい。多孔板というのは穴のたくさん開いたプラスチックの板です。これは、クラゲがポンプの方に吸い込まれないようにするための仕切りです。また、砂のある部分はろ過槽です。クラゲには、たくさん餌を与えるので、すぐに水が汚れてしまいます。このため、水をきれいにするろ過槽が必要なのです。
図:空気とクラゲ
 水の吹き出し口は必ず水の中に沈めましょう。細かい空気が入るとクラゲの傘の中にたまってしまい、クラゲが死んでしまいます。また、向きをいろいろと工夫して、水槽の中でクラゲがうまく泳ぐように調節しましょう。
図:給餌
 エサには、ブラインシュリンプの幼生やアサリの身を細かくミンチにしたものをスポイトなどで、クラゲの口腕に吹き付けるように与えます。少し時間が経ってから、あまって底に沈んでいるエサを吸い取ってしまいましょう。エサは1日に2回くらい与えて下さい。 水が汚れやすいので、ときどき水替えをしてあげて下さい。


『海のはくぶつかん』Vol.24, No.5, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おおやま たくじ:学芸文化室水族課

最終更新日:1997-03-05(水)
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