■『海のはくぶつかん』1994年5月号

蟹の鉗 その二

 岡 有作 

 以前お話をした「蟹の鉗」(本誌Vol.23,No.5)の続きです。カニを食べたときに、前回の話を思い出されたでしょうか。この記事は、先の号を引っ張り出して見比べながらお読み下さい。
 カニをカニらしくしている鉗は、種類によっては身を守ったり餌を採るためだけでなく全く別の働きもしています。
写真1. スナガニ
 スナガニでは、発音器官が鉗脚掌部のヤスリ状と座節の摩擦片からできていて擦って鳴き声を出します。ラテン楽器のギロと同じ原理ですが、ずっと穏やかな音です。
 刺網の漁師さんへ通ってカニを調べていたときです。次の写真に見られることに気が付きました。
写真 2. ヒラツメガニ 1.
写真 2. ヒラツメガニ 2.
 同じ場所で捕れる同じ種類のカニなのに、鉗の形が左右同形のものと異形のものがいるのです。同形のカニは鋸歯がどちらも小さく異形のカニでは片側が大きな歯をしています。体の大きさ、つまり幼老の違いや、雌雄の差でもないし、理由が判らないので調べてみようと思っています。
 多くの種類のカニの鉗を調べていると彼等の生活の色々なことに見当がつくようになってきます。餌の種類と食べ方、生息場所、行動、攻撃的かそうでないか、語りかけてくるようです。カニの鉗だけでも小さな博物館が作れそうです。
写真3. マネキガニ
 当館のメクアリウムの入口で大きな鉗脚を振っている人気者です。鉗脚が片方だけ大きくなったのはなぜでしょうか。このカニには雄と雌の区別はありません。見学のお客さんを招くように進化しています。順路の流れに合わせてどちらか一方の鉗脚が大きくなっています。進化したは冗談ですが、メカニマルにも本物のカニのような微妙な能力の違いを持たせてみたいとも空想しています。
 当館に限らずカニの仲間は人気者で、飼育していない水族館は少ないでしょう。タイミング良く餌の時間に居合わせたら、カニが鉗を上手に使って餌を食べるのを観察できるでしょう。飼育している動物の色や形だけを見るのでなくその行動をじっくり観察するのも面白いでしょう。


『海のはくぶつかん』Vol.24, No.3, p.6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室博物課

最終更新日:1996-11-05(火)
〒424 静岡県清水市三保 2389
     東海大学社会教育センター
        インターネット活用委員会