■『海のはくぶつかん』1994年3月号

小さなハリイバラガニ(あれこれ)

毎原 泰彦 

写真  当館では、1989年から駿河湾に生息する深海生物の調査と調査によって採集された生物の展示を行っています。現在までの調査により水深800〜1000メートルでの篭網による深海生物の採集では、カニに良く似た姿形をしたヤドカリの仲間であるタラバガニ類が多数採集されることが分かってきました(本誌Vol.21, No.2参照)。
 これらのタラバガニ類の中で最も多く漁獲され、唯一漁業の対象種となっているエゾイバラガニは、甲幅1〜2センチの稚ガニが湾内で多数採集される事から、駿河湾内で繁殖していることはほぼ確実ですが、他の種類のタラバガニ類については現在までのところほぼ成体の大きさの個体しか採集されていません。ところが漁師さんはそれらの種類の中で、ハリイバラガニ(成体の甲幅は約10センチ)は小さい個体が採れることがあると言うのです。そこで、採れたら連絡してもらうよう頼んでおきました。漁師さんとの約束も忘れかけていた昨年の12月のことです。小さいハリイバラガニが三保沖の水深830メートルで採れ、今水槽に生かしてあるとの連絡を受けました。すぐに漁師さんの所へ伺いましたが、残念なことに水槽の中で死んでいました。標本とするため当館に運び、大きさを測ったところ甲幅58ミリ、甲長62ミリで、現在までに採集された個体の中では最も小さい個体でした。しかし、本種が湾内で繁殖しているかどうかはまだまだ分かりません。


『海のはくぶつかん』Vol.24, No.2, p.7(上) (所属・肩書は発行当時のもの)
  まいはら やすひこ:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-11-05(火)
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