東海大学とモスクワ大学は古くから学術協力を結び交流を深めています。昨年は本学湘南校舍において建学祭期間中に「モスクワ大学展」が盛大に開催され、モスクワ大学の歴史や、現在の活動などが紹介されました。
そして今回、東海大学の活動と創設者松前重義博士の思想と業績を紹介するためにモスクワで開催されることになりました。
2月に準備委員会が発足し、計画と準備にとりかかりました。その中で当館から魚とメカニマルを出展することに決まり、またその準備と保守のため当館から2名が出張することになりました。
魚の水槽は、当館の入り口にある円柱水槽と同じもの(480l)を新たに作り運ぶことにしました。しかし、ロシアには水族館もなく、海水の入手のこと、電源のこと、輸送の方法などどうすればよいのか分らぬことばかりです。
メカニマルについても国内ではいろいろな場所で出張展示の経験はありますが、外国は初めてです。一つづつ検討し準備を進めました。
時のたつのは早いもので計画から7ヵ月がたち出発の日が近づいてきました。
ところがそんなときロシアの情勢が変化し10月4日に内戦状態になり、ロシア最高会議ビルに戦車による砲撃が加えられるなど一時緊迫した状態になりました。しかしそれから8日後、我々の出発する4日前にはロシア国内の平静さを示すかのように、以前から予定されていたエリツィン大統領の公式訪日が実現されました。
我々2名を含む大学関係者の先発隊8名は、10月16日成田を出発しました。水槽やメカニマルそのほかの品物は別便として既に送りましたが、魚については、いろいろ検討した結果機内に持込み運ぶこととなりました。
8名で持てるだけの魚を検討し、その結果、当館生まれのカクレクマノミ、ハナビラクマノミなどロシアで人気を集めそうなサンゴ礁魚類6種160点が決まりました。
8名全員がこのためにこしらえた保温箱の中に魚を分散して運びます。ゾロゾロと重い大きな箱を持って全員が税関を通過する光景は少し異様であり、また滑稽にも見えました。
11時間の飛行でモスクワに着き、出迎えられたモスクワ大学の方々の配慮で簡単な手続きだけで、すぐさま用意されたライトバンに乗り込みました。 空港から約一時間、夜間外出禁止令が出ていて、ひっそりとしたモスクワ市内を走り、一時的に魚を預って頂くことになっている科学アカデミーに到着しました。
モスクワは日本より随分気温が低く、いくら保温箱でも水温の低下を心配して、使い捨てカイロを用意していきましたが、飛行機もライトバンも暖かく、その心配もなく無事水槽に収容することができました。
さて次の日からはモスクワ大学で展示水槽やメカニマルの準備という手筈でしたが、こちらのほうは、魚の搬入と随分違い荷物が届いているにもかかわらず、税関検査が厳しく、我々の手に届いたのは3日後の20日の朝でした。
23日には松前達郎総長、サドブニチイ総長はじめ多くの来賓の参加する中、盛大にテープカットがなされ展覧会はオープンしました。
ソーラーカーの模型などを除くと大部分がパネル展示の展覧会にあって、動きのある魚たちとメカニマルは人気者となりました。
魚と水槽は展示終了後に、モスクワ大学に寄贈されました。長く飼育してもらい、またモスクワ生れのカクレクマノミができるのも夢ではありません。
モスクワ大学では多くの学生の方々と接しましたが、自由にそして皆いきいきと熱心に勉学に励んでいる姿に感動しました。
最後に本当に親身になって配慮して頂いたモスクワ大学の関係者の方々、科学アカデミーの方々に御礼申し上げます。
『海のはくぶつかん』Vol.24, No.1, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)