■『海のはくぶつかん』1993年11月号

探究セミナ− 、
ウミボタルの発光実験

小林 弘治 

 海は発光生物の宝庫で、驚くほど多種類の発光生物がすんでいます。ウミボタルは、生物発光の仕組みが研究された代表的な種類で、発光生物として有名です。日本の海だけにすむ特産種です。
 ウミボタルは、ミジンコ類と近縁の種です。無色透明なキチン質の2枚の殻に、ミジンコのような姿をした体がつつまれた、成長しても長さ3mm、幅が2mmほどの小さな動物で、暖流の影響を受ける日本各地に分布し、海水がきれいで波静かな内湾の砂地のある岸近くで生活しています。昼間は海底の砂の中に潜っていますが、夜になると砂中からはい出してきて活発に泳ぎ、死んだ魚などの肉を食べます(本誌Vol.17 No.5参照)。

ウミボタル

 ウミボタルは、ルシフェリンという発光物質とルシフェラーゼという酵素を体内で作って蓄えていますが、通常は発光していません。発光には何かの刺激が必要で、刺激を受けるとひげがある口の付近の穴から、粘液性の発光物質と酵素を体外に放出します。すると、この両者と海水中の水分が反応して、青色の酸化発光が見られるのです。ウミボタルは泳ぎながら発光源を放出するので、泳いだ軌跡が青い糸状の光り雲となります。
 今年の夏の「海と魚の探究セミナー」では、このウミボタルの発光現象の観察を計画しました。それには、ウミボタルを採集しなくてはなりませんが、当館のある三保半島周辺ではウミボタルは採集できません。そこで、確実に採れると思われる伊豆半島の下田にある鍋田湾に出かけました。

ウミボタル採集の道具(左)と採集風景(右)

 ウミボタルは、夜行性なので採集は暗くなった夜の7時30分頃から開始します。
 採集方法は、ひもをつけたプラスチック容器(約3l)に、重りと餌(新鮮なアジを開いたもの)を入れ、タコやカニなどに餌を取られないよう容器の開口部に網をかけて、2〜3mの海底に沈めます。
 10分程すると、ウミボタルが魚の匂いに誘われ容器内の餌に群がるので、静かに引き上げます。容器にウミボタルがたくさん入っているときには、体内が青く光っていたり発光液を出している個体も見られます。ところが、今年の夏は天候不順のためか、思うようにウミボタルを集めることができませんでした。
 探究セミナーでは、ウミボタルの発光現象を観察するために2通りの方法で実験を行いました。最初の実験は、乾燥ウミボタルの入ったシャーレを講習生が持ち、それぞれに真水を加えました。すると、その瞬間から発光現象が起こり20〜30分ほど持続しました。この実験では、ウミボタルの体内に真水が浸入し、発光物質を蓄えている部位で反応が起こり青く発光したのです。
 次の実験では、ウミボタルが入っている水槽に、弱い電流を数秒間だけ流して刺激を与え、発光物質などの放出を促しました。この実験では、ウミボタルの泳いだ軌跡が青く光る前述の発光の様子が観察できました。
 この2つの実験を通じて、ウミボタルの小さな体からは想像もつかない、生物の神秘的な発光現象を見ていただけたものと思われます。


『海のはくぶつかん』Vol.23, No.6, p.6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  こばやし こうじ:学芸文化室水族課

最終更新日:1996-12-08(日)
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