■『海のはくぶつかん』1993年7月号

潮だまりを調べに行こう

毎原 泰彦 

 潮汐による潮の干満により周期的に出現を繰り返す水たまりのこと潮だまり(タイドプール)といいます。干潮時に外海から隔離されてできる潮だまりは、形、大きさ、海からの距離など、どれ一つとして同じものはありません。ここでは、静岡県東伊豆の海岸(磯浜)で、一年中で昼間一番潮が引く時期に当たる5月末の大潮の日におこなった磯と磯にできた潮だまりの観察結果を中心に、そこに住む生き物についてお話しします。

 この海岸では動物プランクトンで、カイアシ類の仲間であるシオダマリミジンコが出現する潮上帯(飛沫帯)の潮だまりは見られませんでした。この場所が比較的狭い海岸で、海との高低差もさほどなかったのがその理由として考えられます。
 私達はまず、大きな潮だまりの中にあった石をひっくり返してみました。すると、石の下からは8本の腕をもち、茶褐色の縞模様をしたヤツデヒトデが姿をあらわしました。ウミウシの仲間やナマコの仲間は、ゆっくりと岩からはがれて水の中に落ちて行きます。イソスジエビやヒライソガニなどは身を隠す場所を探して大急ぎで逃げて行きます。彼らはいずれも強い日差しを避けて、石の下に隠れていたのです。
 石の下には、このように逃げることのできる生き物だけでなく、固着していて動くことのできない生き物もたくさん生活しています。観察のためにひっくり返した石は、観察が終わったら元の状態に戻しておかないと多くの生き物を殺してしまうことにもなります。また、標本にしたり、飼育するために生き物を採集するときは、必要最小限にすることを心がけましょう。手にとって観察した生き物は、もといた場所にそっと戻してあげましょう。潮だまりはそれだけで小さな生態系を形づくっているのです。人間のちょっとした行為が簡単に生態系のバランスを崩してしまうのです。

潮だまりの中で見られる生き物

アメフラシの卵のう

 潮だまりの中では魚類のアゴハゼやボラの子供が群をつくっています。岩の隙間や転石の陰にはヒライソガニやショウジンガニ、小型の巻貝の殻を住居にしているホンヤドカリ、春の磯の代表でもあるアメフラシもいます。“うみぞうめん”と呼ばれる黄色いアメフラシの卵のうが岩の上で干上がっています。潮だまりの岩陰にはムラサキウニが隠れるようにしています。たまたまこの潮だまりに入ってしまったのでしょうかマダコの姿も見えます。

潮だまりの周りの岩に付着している生き物

 潮だまりの周りの岩場にはカサガイの仲間のヨメガカサ、その周りには多くのイワフジツボが着いています。7本の太い肋をもつウノアシガイや殻が岩に固着しているオオヘビガイもいます。ちょっと離れた岩場にはイワフジツボよりかなり大きく、縦に走る隆起のあるクロフジツボ、8枚の貝殻をもつヒザラガイも見えます。クロフジツボのある岩の隙間には数個体が一塊になった薄黄色のカメノテが短い柄で岩に張り付いています。
 皆さんも磯に出て、磯とそこにできる潮だまりに住む生物達をじっくり観察してみてください。四季それぞれの磯を観察することができれば、そこに住む生物達の生きて行くための興味ある様々な姿を目にすることができるに違いありません。

観察の記録をつけよう

 楽しい磯の観察も、それだけではただの思い出になってしまいます。せっかく海まで行くのですから、観察の記録をとってみましょう。記録といってもあまり難しく考えず、絵日記でもつけるように楽しくまとめればいいのです。
 まず海辺では、磯のようす、タイドプールに住む生き物、その日の天気やおもしろいと思ったことなど、何でもかまわずかたっぱしから記録しておきます。一緒に簡単な絵なども描いておけば後でまとめるとき役に立つはずです。カメラがあれば写真を撮っておくのもよいでしょう。
 家に帰ったら海辺でとった記録をまとめます。できればその日のうちにまとめてしまいましょう。そのままでは、時間がたつと自分でも何を書いたのかわからなくなってしまいます。まとめ方は自由ですが、いつどこへ行ったのか、そこはどんな場所で何がみられたのかなど、その日のようすがよくわかるようにしておくことが大切です。

<観察記録の例> 前ページの写真を撮ってきた磯のようすです。

☆一枚にまとめる必要はありません。自分なりにいろいろと工夫してみましょう。

 こうして海に行くたびに記録をまとめて行けば、やがてそれは自分だけの「海の百科辞典」になって、観察の時には気が付かなかったようなことまで教えてくれるはずです。


『海のはくぶつかん』Vol.23, No.4, p.4〜6 (所属・肩書は発行当時のもの)
  まいはら やすひこ:学芸文化室水族課
  おおやま たくじ(p.6のみ):学芸文化室水族課

最終更新日:1997-03-17(月)
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