■『海のはくぶつかん』1993年3月号
いぼだい(あれこれ)
鈴木 宏易
昨年の11月、展示用生物採集のため、定置網漁に出かけたところ、イボダイがたくさん採れたので持って帰ることにしました。
定置網で採れた魚は、網揚げの際、体表がすれたり、魚同士がぶつかって傷がつき、死んでしまうことが良くあります。しかし、イボダイは、他の魚と比べ、体表をたくさんの粘液で覆っているためか、傷がひどくならず、今もたくさんの個体が元気に展示水槽で泳いでいます。
イボダイの幼魚は、クラゲと一緒に表層を泳いでいますが、成長すると、昼間は底層、夜間は表層を回遊するようになります。なぜ、幼魚はクラゲと一緒にいるのでしょう。
食性を調べてみると、幼魚の主な餌生物は、クラゲ類・橈脚類(Vol.22, No.5 参照)で、成魚では、オキアミ類・サルパ類(プランクトンの一種)となっていました。ということは、クラゲを食べるために一緒に泳いでいるのかも知れません。
もう一つ、幼魚がクラゲと一緒にいる理由として考えられることは、捕食者から身を守るため、クラゲを隠れ家にしているのではないかということです。しかし、自分が隠れ家にしているクラゲを食べてしまうと、そのクラゲはすぐに死んでしまいます。そして、新しいクラゲが見つかるまでの間、隠れ家が無くなってしまいます。
はっきりした答えはわかりませんが、今展示しているイボダイを観察して、この謎がとければと思っています。
『海のはくぶつかん』Vol.23, No.2, p.7(下) (所属・肩書は発行当時のもの)
すずき ひろやす:学芸文化室水族課
最終更新日:1997-04-19(土)
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