■『海のはくぶつかん』1993年3月号

海はく・たんけん隊6
史上最大の動物

小西 由記 

 東海大学自然史博物館には、世界最長の恐竜ディプロドクスの骨格模型が展示されています。この恐竜は、頭の先からしっぽの先までなんと28mもあります。ところで、海で生活する哺乳類の中に、このディプロドクスよりももっと大きくなる動物がいるのをご存じですか?
 それは、シロナガスクジラで、大きいものでは体長33mにもなる史上最大の動物です。こんなに大きなクジラですから、生まれたばかりの赤ちゃんも大きく、体長はなんと7〜8mもあります。赤ちゃんクジラは、生れてからしばらくお母さんのおっぱいを飲んで育ちます。おとなのクジラは、大きな体に似合わず、体長5cmほどの小さなオキアミなどを食べています。

 さて、この”シロナガスクジラ”という名前ですが,漢字では”白長須鯨”と書きます。ほんとうの体の色は青っぽい灰色で、全身に淡いまだら模様があります。でも、水の中にいる姿は青白く輝いて見えるので,日本では名前に”白”とついたのでしょう。白いクジラといえばメルヴィルの小説『白鯨』が思い浮かびますが、こちらは白い大きなマッコウクジラがモデルだそうです。ちなみにシロナガスクジラの英名は”ブルーホエール”。泳ぐ姿が海水を通して青く見えるところから付けられたそうです。
 さて、これらクジラの名前は、実際に海で見た人にしか分からないような特徴から付けられたものが多いようです。昔、一番クジラと接していた捕鯨船の船員たちでしょう。彼らはクジラに対して親しみを込めて様々なニックネームをつけていたそうです。長い航海を続ける船員たちにとってクジラは、時には仲間のように思えたのかもしれません。でも、一般の人たちは、生きているクジラを見ることがほとんどなかったせいか、クジラと聞けば食べ物としてのイメージが強いという人が今でもいるようです。今年の5月に京都市で国際捕鯨委員会(IWC)の会議が開かれますが、日本は、この会議で再びクジラを捕ることを認めてもらおうとしています。
 最近、一般の人もテレビやホエールウォッチングなどで、海を悠々と泳ぐクジラを見られるようになったためか、少しづつ反捕鯨を叫ぶ人も出てきたようです。捕鯨派と反捕鯨派の意見対立は今後も続きそうですが、この話合いは正しい知識と情報を持った研究者たちが行うことで、初めて意味を持つのだと思います。一般人である私たちに必要なことは、何よりもまず、クジラという生き物をもっとよく知ることだと思います。(K)

ピグミィ・シロナガスクジラ
 これは世界で唯一のピグミィ・シロナガスクジラの全身骨格標本で、体長18.6mもあります。このクジラはシロナガスクジラよりも小さく、ずんぐりした姿をしています。クジラの骨には沢山の油が含まれていて、捕鯨が盛んに行われていた頃にはこの油を様々なものに利用していました。20年以上展示されている今でも骨からじわじわ油が出てきています。


『海のはくぶつかん』Vol.23, No.2, p.4〜5 (所属・肩書は発行当時のもの)
  こにし ゆき:学芸文化室博物課

最終更新日:1997-04-19(土)
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