■『海のはくぶつかん』1993年3月号

鯛中鯛 其ノ二

岡 有作 

 前号に引き続いて「鯛の鯛」について、もう少しお話ししましょう。
 前回は、たった12種類の魚の「鯛の鯛」を見ていただいただけでしたが、自然の造形の美しさや変異の大きさに気が付かれたと思います。
 さて、今回は「鯛の鯛」を自分で取り出して見たいと思われた方のためにその方法を御説明することにしましょう。少しばかり覚えにくい骨の名前も出てきますので、前号と一緒にお読み下さい。

「鯛の鯛」の取り出し方と保存方法

 「鯛の鯛」は魚の中でも特においしいカマの部分にあります。取り出すために身を捨ててしまってはもったいないので、魚を味わえる方法で料理してみましょう。
 鰓蓋のすぐ後ろ、胸鰭の付け根あたりに「鯛の鯛」はあります。
 初めから「鯛の鯛」を取り出すつもりで料理するのなら、少し余裕を持って余分に切りましょう。本当は、頭や内臓など余分なものがない方が取り出すときにわかりやすいのですが、料理となるとそう言う訳にもいきません。
 「鯛の鯛」を取り出すには、煮付けにするのが一番良いようです。焼くと骨まで焦げてしまって骨がきれいに取れません。煮すぎて骨がくずれないように注意して下さい。
 よほど小さい魚でなければ、箸だけで取り出すこともできます。むしろ、微妙な取扱にはピンセットよりも適しているかも知れません。
 また、ほかの骨から離すときには、直接指先を使った方が壊れにくいようです。
 良く煮えていれば身離れも良く、きれいになります。煮かたが足りないようなら、熱湯をかければきれいに取れるようになります。
 保存するときは、乾燥させるだけで十分です。薬品などは、むしろ使わない方が良いでしょう。もしも臭くなったりしたら、もう一度熱湯をかけてからよく乾燥させることです。
 当館でも、乾燥させた「鯛の鯛」を1個体ごとに、メモと共にファスナー付きビニル袋にいれて保存しています。

「鯛の鯛」のいろいろ

 前号で紹介できなかった「鯛の鯛」をいくつか比較しながら見て下さい。カラーで見ていただけないのが残念ですが、いずれもそれぞれに美しいものです。

イトヨリダイ
(イトヨリダイ科)

 魚の外形は細長いのですが、マダイと近縁種で「鯛の鯛」の形もマダイのそれと似ています。
メガネウオ
(ミシマオコゼ科)

 近縁のミシマオコゼでは、頭の後ろの棘を支える骨との結合が強く「鯛の鯛」を分離できませんでした。
タナカゲンゲ
(ゲンゲ科)

 コブシカジカと同様に透明でしなやかなフィルム状の骨です。輻射骨が大きく発達しています。
ウスバハギ
(カワハギ科)

 細長く、烏口骨の一部が伸びているのが特徴です。カルシウムが沈着して白く不透明になっています。
ツマリトビウオ
(トビウオ科)

 トビウオの中ではずんぐりしていますが、烏口骨には孔が開き、軽くて丈夫に作られています。
ササノハベラ(上)
(ベラ科)
ブダイ(下)
(ブダイ科)

 ベラとブダイは比較的近縁の仲間で、「鯛の鯛」も全体のプロポーションは似ています。それぞれの外見と同じ様な雰囲気をもつ「鯛の鯛」です。
トウザヨリ
(サヨリ科)

 サンマに近縁の魚です。烏口骨にも孔が開いています。魚の姿に似て、繊細な「鯛の鯛」です。

Aツムブリ(アジ科) Bオニカマス(カマス科)
Cシイラ(シイラ科) コバンザメ(コバンザメ科)
 左の4枚の写真は、魚の分類の上では関係の遠い種類でも、外洋を高速で泳ぐ生活に適しているという点では共通するところがあります。烏口骨(うこうこつ)には補強が入り、それぞれの魚の姿のようにきれいなカーブを描いて伸びています。”怠け者”のせいかコバンザメだけは、この部分がほっそりとしています。
 2回にわたり「鯛の鯛」を通して魚の違った面をのぞいてみました。いかがだったでしょうか。


『海のはくぶつかん』Vol.23, No.2, p.2〜3 (所属・肩書は発行当時のもの)
  おか ゆうさく:学芸文化室博物課

最終更新日:1997-04-19(土)
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