■『ふれあいBOX』1997年1-2月号

地球プレイバック 「新生代の仲間たち」9

イノシシに似た絶滅動物 エンテロドン

柴 正博

 偶蹄目エンテロドン科。全長1.2メートル。アジアからヨーロッパに生息。
 体の大きさの割に四肢が長いので、かなり速く走ることができたと考えられる。
 東海大学自然史博物館には、エンテロドンの頭骨が展示されている。

 現生のウシやキリン、イノシシやシカなど、偶蹄類(2本または4本の蹄を持つ動物)の仲間は走ることに適応した動物です。
 エンテロドンの仲間は、偶蹄類の中でも初期に繁栄した原始的な種類で、始新世後期(3700万年前)から中新世後期(1100万年前)の北半球の森林地帯に生息していました。
 外見はイノシシに似ていて(ただしイノシシの直接の先祖ではありません)、頬骨の下にある「こぶとり爺さん」の「こぶ」のような突起が特徴です。下アゴの下にも突起があり、それらに、いろいろな種類の木の根や地下茎など、硬いものを噛み砕くための強力な筋肉がついていたのでしょう。
 エンテロドンの仲間は、まずアジアに出現し、ヨーロッパや北アメリカまで分布を広げました。アジアに生息した初期のエンテロドンは全長が1.2メートルでしたが、北アメリカに生息したディノヒウスという種類は全長3メートルを超える大きさで、頭骨だけでも1メートル近くありました。バイソン(野牛)のような体つきで脚は細長く伸びて速く走ることができたようです。
 エンテロドンとほぼ同じ時代に生息したエンボロテリウムは、エンテロドンの2倍の大きさの体で大きな角を持つ奇蹄類(蹄が1本または3本の動物)です。
 柔らかい木の葉などを食べたエンボロテリウムに対し、大きい犬歯と鋭い嗅覚を持ったエンテロドンは、小動物や昆虫のほか、ときには動物の死肉も食べていたと考えられ、その雑食性によってエンボロテリウムより長く繁栄しました。
 それまで熱帯性森林が広がっていた北半球は、中新世以降、次第に草原や林になっていきました。そういった環境の変化に適応できなかったエンテロドンの仲間は絶滅し、現生のイノシシの祖先やその他の偶蹄類が繁栄していきます。
 その多くは「反芻(飲み込んだ食物を口に吐き戻して噛むことを繰り返して消化の効率を高めること)」の能力を持っています。この消化方法は、大量に食べなくても栄養を効果的に吸収できるのです。



『ふれあいBOX』1997年1-2月号 (所属・肩書は発行当時のもの)
  しば まさひろ:学芸文化室博物課

最終更新日:1997-04-01(火)
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