人がまだ恐竜の存在さえ知らなかった今から200年以上も前、オランダのマーストリヒトで、巨大な動物の化石がみつかりました。発見した人たちはそれが何の骨かもわからず「怪物の骨」として恐ろしがりました。地元の医者だったホフマン博士はこの骨に関心をもち、ひとりで苦労して頭とあごの骨を発掘することに成功しました。
しかし、その骨の化石は「怪物の骨」として町ではあまりにも有名になってしまったために、発掘地の地主がその骨の所有権を主張し、裁判の結果「怪物の骨」は地主のものとなりました。その後、ナポレオン率いるフランス軍が、この町に攻めてきたときに、その骨は戦利品としてパリに運ばれてしまい、「マーストリヒトの怪物」として、ながくパリの自然史博物館に展示されました。そして、その自然史博物館の館長となった動物比較解剖学の父といわれるキュビエ博士によって、その正体は海にすむ大トカゲの仲間だということがわかりました。
この巨大トカゲは、モササウルスといって、大きいもので全長が10mもあり、脊椎骨と尾は太く、手足はひれになっています。
大きな頭に大きな目、あごは強く円錐形の大きな歯がいくつも並んでいます。おそらく、長くて強い尾で海の中をすばやく泳いで、魚などの獲物を食べていたと思われます。
マーストリヒトの周辺には、白亜紀後期に海にたまった地層がひろく露出しています。このモササウルスもこの地層からたくさん発見されていますが、同時にこの地層にはたくさんのアンモナイトの化石が含まれています。その中に、モササウルスの歯型と同じ配列の穴のあいた殻がみつかったために、モササウルスはアンモナイトも食べていたことがはっきりしました。
モササウルスの仲間の化石は、ヨーロッパ以外にもアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなど世界中の白亜紀後期の地層から発見され、種類も多くいました。海の大トカゲは、このころの海の中でもっともどう猛な肉食の生き物だったと考えられます。
そして地上で繁栄した恐竜とともに白亜紀の末に、絶滅したものと考えられます。
『ふれあいBOX』1995年10月号 (所属・肩書は発行当時のもの)