1948年5月、南ゴビの西部、ネメグト盆地に入ったソビエト探検隊は、10mもあるほぼ完全で巨大な肉食恐竜の化石を発見しました。その時の状態は、あたかも後ろ足であぐらをかき、頭骨を後ろに投げているように横たわっていました。この化石は、のちにタルボサウルス(警告するトカゲ)・バタールと名づけられたものです。
ネメグト盆地の地層は、白亜紀のうちでも最後の時代に堆積し、タルボサウルスのほかに、巨大で恐ろしい手をもった恐竜デイノケイルス(まだ前肢の化石しか発見されていない恐竜)や、植物食のサウロロフスなどの大型の恐竜化石が発見されています。
北アメリカで発見される世界最大の肉食恐竜ティラノサウルス(暴君トカゲ)とくらべると、体が少し小さいというだけで、ほぼ同じ骨格的な特徴をもっています。
タルボサウルスのがっしりと重い頭骨は、強力で巨大なあごをささえるためにあると考えられ、この動物のどう猛さがうかがえます。巨大な頭骨を前肢以外の骨格全体で支えあっている構造をしていて「巨大なあごを乗せた巨大な二本の後ろ足」という表現がぴったりです。
そして、もうひとつの特徴は、巨大なあごに対して極端に小さな前肢です。いったい何に使ったのかと考えるほど小さな前肢は、ナイフのような鋭い歯にからまった肉片も、とることができなかったことでしょう。
タルボサウルスより前にに栄えた肉食恐竜のアロサウルスは頭のアロサウルスの頭の骨に大きな窓があいていて、頭骨が軽くなっているためすばやく動けました。しかしタルボサウルスの頭は、窓はあるもののがっしりと重く大きいのです。そのため、動きが鈍く、他の恐竜を襲うことができず、いつも死肉を食べていたという説がありました。しかし、最近では尾が大きく、胴体と頭に対して釣合いがとれていて、強い後肢で機敏に動き獲物を捕食していたと考えられるようになりました。
また、タルボサウルスの頑丈な頭骨は、大型の恐竜に頭から体当りして相手を倒しても平気なほど強いので、彼らの狩りにはもっぱら体当りの方法が用いられたと考える人もいます。
『ふれあいBOX』1995年4月号 (所属・肩書は発行当時のもの)