フグ毒を持った巻き貝とヒトデ

  東海大学水産学科開発過程助教授
 斉藤俊郎


  話は1979年に遡ります。駒越付近の某飲み屋で、とある造船所勤務のオジサンが酒の肴をつついて晩酌をしているところからそれは始まりました。

 彼のオジサンが突然口から泡を吹いて倒れたのです。急遽救急車で病院に運ばれました。幸い命は取り留めたのですが、担当した医師が「こりゃ、どうも生物毒による中毒症状だ。」と言うので、オジサンの食べ残りの“酒の肴”が、当時海洋毒の研究が進んでいた東大農学部水産化学研究室に送られてきたのです。

  この“肴”、何だったと思いますか?ボウシュウボラという大きな巻き貝だったのです。分析してみると、確かにこの生物からフグ毒が検出されるのです。「こりゃ、大変!」ということで、(何故かと言えば、この巻き貝は日本全国に分布しかつ食べられる事もあるからです。)各地からボウシュウボラが続々と送られてきました。毒性検査をしてみるとフグ毒が次々に検出されます。

  ここで「次々に検出」等と書くと、「毒性試験て簡単にできるのか。」と思われそうですが結構大変なんです。まず、ボウシュウボラの殻の固いこと固いこと、これをハンマーでガンガンたたいて割るのです。当然大きな音がします、当然人と話す声も大声になります。おまけに臓器の臭いこと。これをやり出すと周りの人が「彼らまたやってるよ。」と、いなくなってしまう程でした。

 その結果、だんだん分かってきたのは、毒は殆ど中腸腺に貯まることです。中腸腺て聞き慣れないと思いますが、飲み屋でバイ等の巻き貝を食べるとき、殻から中味をくるくる出すでしょう。あの一番端の苦い部分です。フグ毒はここに蓄積します。


  人間は面白いもので、少数回の実践では分からないことでも、回を重ねていくと個々の実践の共通性に気がつき出します。ボウシュウボラをさっき言ったようにガンガンやっている内に、いつも消化管から同じ生物が出てくることに気が付き始めたのです。

その生物、何だと思いますか?
トゲモミジガイというヒトデだったのです。「まさか、ボウシュウボラのみなさんこのヒトデを食べて毒化しているんじゃないよね。」等と話し合いながら毒性試験の作業をしていたのですが、あまりに頻繁にヒトデが出てくるもので当然「このヒトデの毒性試験してみようか。」になり、試験してみるとこのヒトデから確かにフグ毒が検出されたのです。

  フグ毒が、巻き貝、ヒトデからも検出されてきて当時は驚き、というより「全く、訳が分からない。」でした。今から十数年前のことです。あれから日本のフグ毒研究は長足の進歩をし、多くの、主に底生性無脊椎動物からフグ毒が見つかってきています。
  そしてこれらの生物は、食物連鎖を通じて毒を体内に蓄積することも分かってきました。現在では、海洋生態系でフグ毒を最初に作る生物も分かっています。

何だと思いますか?

それは、ある種の海洋細菌だったのです。フグ毒は、コレラ等と同じように細菌毒だったのです。
今、東海大学では、ここから先のフグ毒研究を行っています。乞うご期待。